おもいでがたり ――ワーキ――
「ラスアー、僕は確かに、君の願いを聞き入れて、森を作った。だけど、僕には種を撒くことしかできないんだよ。
僕には、戦う力もないし、何でも叶えられる全知全能の神ってわけでもないんだよ」
太古。
若木が芽生え始めたばかりのマルフィークの荒野に、耳の後ろから羽根の生えた、人ならざる少年と、人間の青年が二人で立っていた。
草も、花も、少しずつ芽吹き始めている。
人間の、銀髪の青年がしゃがみこんで、芽吹いたばかりの植物たちを、愛おしそうになでた。
青年の名はラスアー。
人ならざる少年――天上の争いの最中、兄の足手まといとなっていた自分に嫌気が差して、この地に墜ちてきた若い神――アル・ナスル・アル・ワーキを、最初に見つけて、介抱した青年だった。
「解っているよ、ワーキ」
「じゃあ、どうして、皆に、僕がこの地にいれば国は豊かになるって、言ったの? これらの種が育った後、本当に豊かになるかどうかは、人間たち次第なんだ……なのに」
「大丈夫だよ」
「え?」
ラスアーは、革鎧に弓矢を持っていた。
「きちんと俺が、彼らを指導する。ワーキ。神である君に仕える、選ばれた人間ってことにすれば、今まで俺の言うことに、耳を貸そうともしなかった連中も、従うようになるさ」
「どういうこと?」
「信仰だよ、ワーキ」
「え?」
ラスアーは、優しくワーキの頬をなでた。
「俺は、人々を信仰で導く。そして人々は、信仰の対象であるワーキ、君を、全力で護るってことさ。
大丈夫。争いばかりの天に、君を連れ戻させたりしない……! 絶対に」
「ラスアー……」
「どんな手を使ってもね」
嬉しいことを、言ってくれているはずなのに。
大好きな人の、はずなのに。
ワーキは、ラスアーの微笑みに、底知れぬ不安を抱いていた。
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