襲撃
夜が明けて、そしてまた、夜が来て。
猫が引っ
聖都の上空に、巨鳥が一羽、羽ばたいていた。
巨鳥の背には、マントのフードををかぶった少年一人と、夜空をまとった魔女が一人。
彼らの眼下はるか下方。
聖なる都には数百人の、白い騎士たち。
少し離れた、隣の街の丘の上に、夜空に祈りを捧げる絵描きの青年が一人。
青年が、憂いを帯びた瞳で聖都上空を見上げた直後。
巨鳥は、火球のごとく朱く輝き、轟音を響かせて、ラスアルハワー神殿の中心めがけて急降下を始めた。
「始まった……!」
エクトは一心に、大切な存在たちの無事を祈るしかなかった。
聖都。上空。
火球と化したナイルスの背で、ソルは武器の棒を握りしめていた。
隣にいるダナブは、涼しい顔をしたままだった。
「行くぞ、ソル!」
「ああ!」
ナイルスとソルは、何度となく言い合ってきた、二人にとっての合図のような会話を交わした。
ナイルスが口から大きな火球を吐き出す。
こちらに向かって弓矢を構えていた騎士たちを巻き込んで、ララの聖堂へと続く回廊が壊滅する。
美しい壁画も、見るものを癒やす庭木たちも、星守ラスアーとナスル神をイメージしたという金と青の二色でデザインされた石畳も、全部全部吹きとんで、陥没した大地にガレキとなって崩れ落ちる。
その中に、大きな黒い鷲が、鬨の声を上げて着地した。
爆風で吹き飛ばされた騎士たちに、さらにナイルスの羽ばたきが起こした突風が襲う。
多くの騎士たちは、この風に弓矢を吹き飛ばされ、気高くも恐ろしい大鷲の姿に、戦慄した。
大鷲の背から、飛び降りたソルは、恐怖のあまり動けなくなっている騎士の一人の横腹に、棒を横薙ぎに叩き込んだ。
騎士は、あっけなく吹き飛んで、転がっていく。
そうして開いた道を駆け抜けていく。
その後ろから、ダナブがゆらりと舞い降りた。
こちらは、地面から頭一つ分ほど浮かんで、そのまま音もなく空中を前進していく。
ナイルスは、二人に背を向けて、応援が駆けつけようとしている回廊の出入り口に向かって、炎の玉を吐いた。
たくさんの装飾が施された神殿の壁が、屋根が、いとも簡単に崩落して、騎士たちの道を
回廊の周囲にいた騎士たちは、魔法という未知の暴力を目近にして、我を忘れて逃げ惑った。
「来たぞ!」
「魔女だ!」
「反逆者も一緒です!」
悲鳴じみた叫びが響き渡る。
ナジは、聖堂の中。ララの棺の前で、剣を抜いて構えた。
「来い……ソル・ワサト……!」
ナジの決意に応えるように、聖堂の扉が、騎士たちの身体によって押し開かれた。
理路整然と並んでいた、祈りを捧げる人のための長椅子が、転げた騎士たちに押されて倒れる。
扉の向こう。赤い炎が揺らめいて見えたそこに、一人の女が立っていた。
「魔女……!」
ナジの神経が、さらにきつく、ピンと張り詰められた。
「お前は、ナジ……か」
白い
ナジが、何か言わなくてはと思ったとき、ダナブが右手をまっすぐにナジの方へのばし、手のひらをナジに見せるようにかざした。
同時、ナジに向かって突風が吹いた。
反射的に顔の前にかざしたナジの両腕を、風は意思があるかのように避けて、顎下から上に吹き上がった。
「……っ!」
兜が持ち上げられて吹き飛ばされる。
一瞬の沈黙の後、ガラン! という音を立てて、兜はララの棺の足元に落下した。
「リノスが言っていた。お前は、大切な友だったと」
「……やはり……」
ナジの瞳に、悲しみと怒りが灯る。
「お前は、リノスではないのだな……」
「我が名はダナブ。アル・ダナブ・アル・ダジャジャ。お前達が神と呼ぶ者に、並ぶ存在」
「本当に……天からの追手なのだな……」
「……好きに呼ぶが良い」
ナジは、すうっと息を吸って剣を構えた。
「ならば、返してもらおう! 私の友、リノスを!」
地を蹴って一歩、踏み出すナジを見て、ダナブは無表情のまま、悲しそうに呟いた。
「おろかな」
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