第六章 決行

厳戒態勢

 ソルとの対峙たいじの後、その足で聖都に駆けつけ、聖王への異例の謁見えっけんまでぎ着けたナジは、自分が見聞きした全てを話した。


 聖王はナジの言葉を信じ、聖都は厳戒げんかい態勢となった。


 周囲の村も街も、全ての市民たちは外出を禁じられ、街の中にも門の外にも、隙間なく騎士たちが配備された。


 その中でも、聖王の騎士全員のリーダーである、騎士団長の部隊に編成されたナジは、神殿の中枢を護る任を受けた。


 子供の頃、巡礼で訪れ、騎士になったときの任命式で訪れ、それ以来久しぶりの神殿だったが、あのときのワクワクした気持ちも、荘厳そうごんさに感動する気持ちも、今はなかった。


 目の前で、棺のようなベッドで死んだように眠る巫女――ララ・ワサトを見て、ナジはソルの面影があると思っていた。


「お前は、反逆者ソル・ワサトとやりあったそうだな」


 不意に声をかけられ振り向くと、騎士団長が立っていた。

 兜についた青い羽飾りが、長の証だった。


「ハッ」


「なぜ、このように神聖な御方の弟ともあろうものが、反逆など……嘆かわしいことだ」


「質問の許可をいただけますでしょうか?」


「ふむ、堅苦しいな。もちろんだ、何なりと聞いてくれ」


 全ての騎士の長となる男だから、もっと威圧的かと思っていたナジは少し肩透かしをくらいつつも、好感を抱いた。


「では。ソル・ワサトの狙いはやはり、ララさまの奪還だっかん……なのでしょうか?」

「そのようだな。数年前。ここを襲撃したとき、彼はこの部屋までたどり着いた。だが、十年前の魔女のように、星守ラスアーさまがお護りくださったのだろう。自分の呼びかけにも目を覚まさない妹の姿を見て、やむなく帰っていった。私にはそう見えた」


「ここまで来て、諦めて帰ったのですか?」


「そうだ。実際ララさまを棺からおろそうとしていた。だが、ララさまの手を握り、持ち上げて……こう、恐れおののいたような顔をして、飛び退いた。きっと彼には何かが見えたのであろうな」


「戦天使のお姿が、見えていたと?」


「ふむ、それは解らぬ。だが、十年前の魔女による襲撃の際も、聖王猊下が奥の間の扉に手をかけたとき、強く清らかな光が魔女を退けたのも、私はこの目で見ている。きっとあのときのような奇跡きせきを、星守ラスアーさまが起こしたのであろうと、私は信じている」


「……了解しました。お時間をいただき、ありがとうございます」


「いや、かまわんよ。それよりも、何があってもここは突破されるわけにはいかない。気を緩めぬよう、共にはげもう」


「ハッ!」



 敬礼をして、持ち場に戻る。


 ソルがララに、手が届いていながら諦めた。


 ナジにはそれが意外でならなかった。

 諦めた? いや、あの少年は諦めてなどいなかった。


 やむなく一時撤退したのだろうが、一体何があったのだろうか。


 延々と考え込んでしまいそうになる頭を軽く振って、ナジは愛剣の柄をつよく握った。


 今度こそ必ず、エクトを、そしてリノスを取り戻すと、心に誓った。


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