走る影

 ソルとナジの対決を、岩場の影から見ていた、一人の若い兵士がいた。


 火を放たれたやぐらから、生命からがら抜け出した兵士は、ところどころ焦げた革鎧を来て、灯台で騎士団から盗んだ馬を連れて、ここまで一心不乱に走ってきた。

 うっかり落馬したところで、呆然としていたら、上空に大きな黒い鳥が現れた。


 その鳥の背に、憎い、憎い、憎くてたまらない、魔女の弟がいた。


 兵士が驚く間もなく、後ろからナジが馬を駆って現れ、鳥から一人、少年が降りてきて、ナジと戦い始めた。


 兵士は、二人が戦う場所から少し離れた場所で、ギリギリと歯ぎしりをしながら、二人の姿を凝視していた。



「魔女の……弟め……殺す……絶対に、コロシテヤル……!」



 荒い呼吸とともに、憎悪の言葉がこぼれた。


 ソルが、炎を放ったのを見て、兵士は驚いた。


 魔のもの。魔女。

 まさか、あれが魔女なのか。

 それとも。魔女の使いか何かなのか。



 とにかく、あの鳥と少年を追えば、魔女のところへ行ける……!



「神…………聖都……ラス……ハワー……」


 少年の声が漏れ聞こえた。


 聖都


 ラスアルハワー


 神殿だ。


 奴らは神殿に向かうんだ……!



 兵士は下卑た笑いを口元に浮かべ、馬にまたがった。




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