おもいでがたり ――リノス――

 リノスは、聡明そうめいな娘だった。

 まだろくに言葉も話せぬうちから、己の中に私がいることを理解していた。


 五つになる頃には、他の人間たちの中には私のような存在はおらず、おのれだけが特別だということを理解した。


 リノスは、私によく話しかけてくれた。

 そして私の話をよく聞いてくれた。


 天上の世界の話や、ワーキの話をすると、リノスはいつも楽しそうに聞いていてくれた。


 リノスは、私にとってはただの宿主ではなく、大切な相棒になっていった。


 リノスが十七歳になって間もない頃だ。


 ワーキを護る結界が少しだけほころんだ。


 機が訪れたと――私は思った。


 リノスは、私のために、私にこの身体をあけ渡すと言ってくれた。


 そして私は、リノスの言葉に甘えて、ワーキを取り戻すため、ラスアルハワー神殿にむかった。


 しかし私は――失敗した。


 力をがれ、騎士に追われ、私は必死だった。

 ワーキを取り戻すまで、何が何でも死ぬわけにはいかなかった。


 私は力を取り戻すべく、この森に隠れた。

 力を取り戻すには、時間が必要だった。

 静かに、誰にも邪魔されずに休める場所……それがここだったのだ。



 そして長い時間をここで過ごしていた。


 外の様子は、使い魔に探らせていたから、リノスの家族が……エクト、お前と、お前の両親が、どうなったのかも、知っていた。


 リノスは、泣いていたよ。


 だが、私を責めなかった。

 今も責めていない。


 すべては、確かに己が選択した結果なのだと。

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