第四章 彼岸と此岸

花かんむりとゆびきり

 そこは、一面に花畑が広がった、穏やかな場所。

 ここには、季節や地域を問わず、世界中の花が一年中咲き乱れている。

 その花畑を包み込む空は、淡い虹色で、気温は春のひだまりのように、いつでも暖かい。

 

 その中に座る色の白い少年。細く繊細な指が、赤や青の花を集めて、くきを器用に編み込んでいく。


「ララ。さあ、できたよ」


 焦げ茶色の髪をした、十五歳くらいに見える少年は、幼い少女の金糸の髪に、花かんむりを乗せて微笑んだ。


「ありがとう、ワーキ!」


 花かんむりを受け取った少女は嬉しそうに笑うと、その場でくるりと回った。

 六歳くらいだろうか、純真無垢じゅんしんむくな笑顔に、少年の頬がゆるむ。


「今日のお花もとってもきれい。ここは本当に、あたたかくて静かね」


 にっこりと笑う少女に、少年は悲しそうな目をした。


「僕のせいで、君をこんなところに閉じ込めてしまって……」


「ワーキ。それはもう言わないって、ゆびきりしたじゃない!」


 少女はほっぺをぷうっとふくらませて、両手を腰に当てた。

 少年は、困ったように笑った。


「ごめん、そうだったね」


「わたしはいいの! 一緒にいるのが、あなたで良かったって、本当に思ってるのよ! あなたに会うまでは、もっと怖そうな人だと思ってたんだもの」


「ふふ、そうだったね」


 笑って、少女の金色の三編みを、愛おしそうにでる少年は、少しだけ人間と違う見た目をしていた。


 耳はとがっていて、付け根の辺りから、鳥の羽根のようなものが生えている。その羽根は、小さなすずめの翼にも見えたし、大鷲の羽根を数枚並べているようにも見えた。

 長いまつげに縁取られた、優しげな瞳は、燃えるような赤色だ。

 服装は、白つるばみ色のシャツに、黒いハーフパンツを履いていて、肩には白地に金色の刺繍が入ったストラという装い。


 少女は白い、レースやフリルがふんだんにあしらわれた豪奢ごうしゃなワンピースに、少年とおそろいの帯を肩からかけている。


「ねえ、ワーキ、もう一回、ゆびきりしましょう」

「うん?」


「もう、さっきみたいなこと、言わないって」

「ああ……」


「あなたは悪くないもの。それに、わたしにはもう、あなたしかいないんだもの。あなたは、わたしの大切な家族よ」


「ララ……ありがとう」


 二人は、色とりどりの花畑の真ん中で、そっと小指をからめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る