上空

 魔女ダナブから、エクトを連れてくるよう言われたソルとナイルスは、また北へと向かっていた。

 半日以上かけて戻ってきた道を、とんぼ返りで飛ぶのはさすがにごめんだとナイルスが言ったので、自宅で朝まで休んで早朝から出発した。


 ナイルスの背に乗るソルの手には、長いシンプルな木の棒がにぎられていた。


 ダナブに吹き飛ばされたときに落とした武器。

 もう戻ってこないだろうと思っていたが、ダナブが拾っていたのだそうだ。


「これ、戻ってきてよかったな~」


 エクトは、棒をしっかり握りしめてつぶやいた。


「ダナブのヤツ。どうせ地上こちらのものが珍しくて、収集癖しゅうしゅうへきがうずいておるのであろうよ」


 ナイルスが刺々しく言った。


「そう言えば、ナイルスはダナブと友達だったんだな」

「友達などではない」


 ナイルスは食い気味に、強い声で否定した。


「友達だったらさあ、吹き飛ばされたときにダナブの魔法だとか、気付かなかったのか?」


「友達などではないと言っているであろうに……全く。

 気付いたことは気付いたさ。だが、ダナブの他にも我らをはばむはいるであろう」

「ああ……」

「そちらとダナブ、どちらの仕業が悩んでいたのだ」

「じゃあどうして、ダナブだって解ったんだ?」


「我らを阻む者……彼奴が人間に直に接触することはないからな……」


「そうなのか?」


「ああ。はずだ」


「へえ……そうなのか……」


彼奴あやつは、もう目覚めることもないからな」


 ナイルスは、呪うように、低い声でそう付け足した。


「さあ急ぐぞ、日が暮れる前に行かなくては」


 そう言うと、ナイルスは大きく羽ばたき、速度を上げた。


 真夏の日中の移動であっても、空の上は涼しかったし、それなりの速さで飛んでいるので、風が寒いくらいだった。

 ソルはマントのえりを片手て抑えた。


「エクト、大丈夫かな? どうやって連れ出す? 監視がたくさんいるだろ? 夜の方が目立たないんじゃないか?」


 ソルの矢継やつばやな問いかけに、ナイルスは不敵な笑みをこぼした。


「なに、手段はどうでもよい。エクトをあそこから連れ出しさえすればよいのだ。

 堂々と空から行けば良い。

 エクトを残していっては、我らが去ったのち、兵士共にどんな目に合わされるか解ったものではないが、共にいるのならば問題あるまい。我らが守れば良いことだ」


「そっか。そうだな! 俺が、守ってやればいいんだ!」


「そうだ。ソル。お主ならできよう」


 ナイルスの返答が思いも寄らないものだったので、ソルは驚いた。


「えっ? なんだよナイルス、ほめてくれるなんてめずらしいな!」

「フン……ダナブのせいで調子が狂っておるのかも知れぬ」


 ナイルスはそう言ったきり、黙って飛ぶことに集中した。


 ソルは、だいぶ西に傾いた太陽を見ながら、エクトを守るということを、考えていた。


 それが、何を意味するのかを。

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