聖なる都の眠りの巫女
聖なる神が
神の名は、ナスル神。
ナスル神は、
当時のアスクレフィオスは、
ナスル神は、それが良かったのだという。
もう、なにもない、静かな場所で静かに眠りたいと、そうおっしゃったのだと。
しかし神々は、そんなささやかな願いを、許しはしなかった。
次々に、
その攻撃からナスル神をお
彼は、荒野に星が降った夜。
その星に心を奪われて、星が降った場所に駆けつけた。
そこにいたのは、
彼は、ナスル神を助け、神々の目から見えぬように
ナスル神も、そんな彼に戦う力を授けた。
そして、彼が望んでいた豊かな森を、豊かな恵みを、このアスクレフィオスの大地にもたらしてくださった。
彼の青年の名は、
後に、アスクレフィオス聖王国を建国し、ナスル神を崇め、人々を導く国教「ザビクの玉座」の
そして、星守ラスアーは、ナスル神が降臨された地に神殿を建て、そこをアスクレフィオスの聖都とした。
星守ラスアーは、人としての生を終えたのち、戦天使となり、今も神殿を、そしてそこで夢を見続けているナスル神を、お護りしている。
これが、このアスクレフィオス聖王国建国の神話である。
この
今も聖都のラスアルハワー神殿の、一般には公開されていない奥の間には、ナスル神が眠り続けているのである。
そんなラスアルハワー神殿には、今日も国中から
巡礼者たちが
石造りの
柱も壁も、
そんな聖堂の奥。司祭が説教をする
行列の先、人々が近づけないようにロープがはられた奥には、大きな棺のような形のベッドがあった。
ベッドは足の方を低くする形で斜めに設置されており、ベッドに眠っている人物の顔を、巡礼者たちがほぼ正面から見ることができるようになっていた。
棺のベッドは、たくさんの白い花で囲まれている。
さらにその周囲は、巡礼者たちが供えていく、色とりどりの花で溢れている。
たくさんの花に埋もれるようにして眠っているのは、五、六歳ほどの幼い見た目の少女であった。
金の長い髪は、両サイドで三編みに編まれているが、眠っている間ものび続けているので、すでにベッドから溢れて、毛先は花に埋もれて見えない。
ゴテゴテと、重そうにさえ見える白いレースがついたネグリジェを着せられ、シルクの薄がけをかけられている。
両手は、胸元で組まれていた。
長い長いまつ毛は、ピクリとも動かず。
桃色の
ただただ、死んだように眠っている。
人々は、その
「おお。あれが眠り巫女さまか」
ヒソヒソと、祈りの列に並ぶ人々がささやく。
「なんと愛らしい……!」
「見て、あの金色の髪。まるで絹糸のようね」
「あのような幼い姿で、ナスル神さまのお側にお
中には、感動の涙を流すものもいた。
聖堂のあちこちに立っている、司祭や司教たちは、そんな巡礼者の姿を満足そうに見つめている。
この棺こそが、ザビクの玉座。
かつて星守ラスアーが、戦天使となる際に眠った場所と言われている。
そしてその玉座で眠るこの少女は、
――眠り
彼女は、天上の神々との争いで深く傷ついたナスル神の
神の夢の世界へと魂をささげた、選ばれし少女。
彼女は、まだ任命されて間もない、新しい眠り巫女で、神の夢の世界へと旅立って、まだたったの十年だった。
眠り巫女は、眠りについたときのまま体の成長が止まってしまう。
そして魂の限界まで、二度と目覚めることはない。
巫女の魂の限界は、およそ百年と言われた。
人々は、彼女の
この日最後の巡礼者は、巫女の外見と同じくらいの、五歳くらいの少年だった。
貧しい身なりをしていたが、彼も母親も、小さくともきれいな花を供え、
「ララさま! 僕からのお花、受け取って下さい!」
少年は、無邪気に声をかけた。
眠り巫女ララ・ワサトは、その声に応えることもなく眠り続けていた。
一刻ほどして、夕暮れの聖都を、少年は母に手を引かれて歩いていた。
「お母さん、ララさまにも、お母さんがいるのかな?」
「そうね、ララさまも、六歳までは普通の、あなたみたいな子供だったそうだから、ご家族もいらっしゃるのでしょうね」
「ふうん……ララさまが巫女さまになって、ララさまのお母さん、きっとみんなに
「そう……そうね」
そう言うと、母親は、息子の手をしっかりと
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