買い出し
門の先は、
田舎育ちのソルには、大都会に見えるほどだ。
ソルは思わず目を輝かせて、商店や
するとすぐに、頭上からナイルスが降りてきて、肩に止まった。
「すごい街だ。
「
「よし! 買い物買い物! どんなものが売ってるか、楽しみだな!」
ソルは
「まずは食料を買うのであろう。あちらに良さそうな
「おう!」
街の市場はひときわにぎやかだった。
ソルは、焼きたてのパンをいくつかと、果物と野菜を少し、チーズと干し肉を
「二人で食べるってどんな感じだろうな? こんなものでいいかな?」
ソルは市場の外れで、今しがた買ったばかりのリュックを広げ、その中に買った荷物をまとめていた。
「ナイルスはほとんど食べないもんなあ。人間二人の食事なんて、久しぶりに考えたよ」
ナイルスは肩でただの鳥のふりをしているので、ソルの言葉に特に答えることもなく、ただ肩をくちばしでツンツンとつついた。
「よし、そろそろ戻ろうか」
そう言って、袋を
市場の通りの横の、小さな
ソルが近寄ってみると、入り口のイーゼルに立てられた
その横や周囲にも、いろいろな大きさの絵が飾ってある。
ソルが気になったのは、女性の絵画の上に吊るすように飾られた、小さなサイズの、空と海を描いた絵画だった。
「これ……もしかして……」
ナイルスが不満そうに肩をつついてくるのを無視して、その絵に顔を近づけると、店の中から、
「やぁ、いらっしゃい。その絵が気になります?」
店主は仕立ての良いシャツを着ていて、
商売は
「あ、ああ。似た絵を、最近見たもんで」
「おや。それはどこでです?」
店主は面白がるような顔になって、手袋をした手で、吊るしてあった絵を取り外して、ソルの目の前に差し出した。
「実はこちらの
「へえ、そうなのか?」
「ええ。ちょっとした、いわくつきでしてね」
「いわくつき?」
ソルの問に、店主は
「いわくって何だい?」
ソルはあえて空気を読まずに、世間知らずの子供のふりをして
ナイルスが肩をつつく。
「まあまあ……お客さん見たところ、お若いが旅をされているのですかな?」
「うん、まあそうだよ」
「なら、さてはどこかの街や村で、地主様や大司祭様のお
「どうしてそんなこと聞くのさ?」
「これを描いた画家の作品は、特別なお客様にしかお売りしないと言ったでしょう? そういうのが好きな、上流階級の方々にだけお売りしているんですよ」
「そういうのってなんだよ? 海とか?」
「ふふ、大事なのは、描かれているものが何かではなく、何者が描いたのか。ですよ」
ソルは何となく、店主の言い回しに嫌なものを感じた。
この絵は、絶対にさっき見た、エクトが描いたものだ。
エクトが何者かが大事……とはどういうことか、問い詰めたい
だけど、自分とエクトが知り合いだなどと街の人間に知られては、下手したらエクトがさらに孤立しかねない。
――だって、自分は、この国全ての人間に石を投げられても仕方ないくらいの、
だから「描いた人間を知ってる」とは口が
軽い
「あ、ねえ、おじさん、アレ何?」
「ん、何でしょう?」
店内を振り向いた店主に、ソルは「あれだよあれ」と言いながら、小瓶を指差して見せた。
店主は店の中から、その小瓶を三つほど持ってきてくれた。
小瓶の中には、それぞれ赤と青と黄の、きれいな粉が入っている。
「これは絵の具ですよ。この粉を、水や薬剤で
「へえ~」
これも、エクトの部屋で見たものだと、ソルは思った。
あの、床にばらまかれていた
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