因縁

 イエド・プリオルみさきの灯台の内部ないぶは、南側の半円部分はんえんぶぶんが倉庫や居室きょしつなどの生活スペースになっていて、北側の半円部分が階段というつくりになっている。

 二人の兵士がその北側の階段をけ上がる。


 何度もおどり場でかえして、また上るのり返し。最上階のね上げ扉が見える頃には、少しだけクラクラした。


「あの光、魔女まじょ仕業しわざにちがいないですよ。きっと、弟に会いにきたんです」

おそろしいことを言うなよ。そうだとしたら、この上に今、魔女まじょがいるってことになるじゃないか」


 血気盛けっきさかんな若い兵士の言葉に、中年ちゅうねんの兵士が青ざめた顔で答えた。


先輩せんぱい、何をおびえているんですか。そもそも先輩は、日頃ひごろからアイツに甘いんですよ」

「甘いって……彼も人間じゃないか」

「人間じゃないですよ。魔女の弟です」


 若い青年兵士は、語気をあららげて言った。


「そんな言い方……」


 あまりの剣幕けんまくに、中年の兵士は驚いた。


「俺の父は、五年前、魔女に殺されたんです。あの、マルフィーク大森林の事件の日に」

「そ、そうだったのか……」


 青年兵士の告白を聞き、中年兵士は何も言えなくなった。


「ここに弟を閉じ込めて、どこからでも見えるような高さの灯台のりをさせてるのは、魔女をるエサにするためじゃないですか。ついに、獲物えものがエサに食いついたんですよ!」

「落ち着け。もし魔女が上にいたとしても生けりにするんだぞ? わかってるよな?」

、そうしますよ」


 青年兵士が吐きてるように言って、屋上へのはしごに手をかけた。


 頭上ずじょうね上げとびらはもう開いている。

 上にエクトがいる証拠しょうこだ。


 目を合わせて、目配めくばせをしてから、すうっと息を吸ってそっと天井てんじょうの穴から顔をだした。


 青年兵士は、周囲を見渡みわたしてから、意を決したようにはしごを上った。


「おい! 魔女の弟!」


 無慈悲むじひ怒鳴どなり声――いや、いかりとにくしみに支配しはいされた心のさけびが、エクトの背中に投げかけられた。


 そこには――

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