第一章 星と星とが出会うとき
罪を恐れぬ少年 ソル十六歳
月のない夜。
小さな村の外れにある、丘の上。そこは静かで、夜空のごとく音のない、死者の眠る場所――
その墓地の一番奥の、
一人の少年がひざまずき、
まるで
ただ、静かに祈っていた。
その美しく清らかな
その鳥は、夜に溶けるような真っ黒な翼に、黄色いくちばしで、目は金色に鋭く光っていた。
世にも珍しい、黒い
大鷲のくちばしがわずかに開いたかと思うと、聞こえてきたのは、鳥の鳴き声ではなく、人の、大人の男の声であった。
「ソル。来るぞ」
ソル。大鷲にそう呼ばれた少年は、静かに目を開き、祈りを終えて、フゥーと長く息を吐いて立ち上がった。
そして思い切り息を吸って、熱された真夏の空気に思わずむせた。
「ゲホッ、わかった、ありがとナイルス」
咳が収まると、少年は
「全く、
大鷲――ナイルスは、苦笑したような声でそう言うと、一度上昇した。
直後、金属がこすれるような耳障りな足音が、いくつもいくつも、
「いたぞ!」
ソルは背後から
同時、
しかし、彼らはせっかく構えた弓を射ることなく、急降下してきたナイルスが巻き起こした突風によって吹き飛ばされ、ひとり残らず体制を崩されてしまった。
ナイルスはそのまま地面すれすれを飛んで、崖の先、落ちていくソルの元へと飛んでいく。
ソルは、素早くナイルスの足首を掴むと、片腕でぶら下がった。
ソルをぶら下げたナイルスは、高度をわずかに上げて数度羽ばたくと、高速で滑空していく。
「じゃあな!」
明るい笑顔で振り向いたソルに、白い鎧の騎士たちは苦し紛れに矢を放った。しかし、それらは空を切って、闇にのまれていく。
「このまま行くか、ソル」
「ああ、行こうぜ! ナイルス!」
ひとりと一羽はそう言い合うと、眼下に広がる大きな、黒い樹々のかたまり――マルフィーク大森林を見下ろした。
「この森に、ポムの樹を植えたんだろ? どの辺か覚えてるのか?」
ソルが風の音に負けないよう大声で言った。
「当たり前であろう。なんせ、ど真ん中よ」
「へえ、じゃあそこまでよろしく!」
「ようし、行くぞ」
ナイルスが森の中央あたりで急降下を始めた。
目指すは、神が作りたもうた
まもなく森の樹に届きそうというところで、突然、ひとりと一羽が目指していた場所から、白く光る
そして、それにナイルスとソルが気付くと同時に、光はふくれ上がり、一気に森全体を
「何だあれ!」
ソルが叫んだ声は、白い光に呑み込まれる。
「クソ……! これはまさか、ダナ……」
ナイルスが悔しそうに叫んだ直後、光の
「ソル! 手を離すなよ!」
「わああああ!」
そんな悲鳴が、一瞬にして遠ざかり、少年も、大鷲も、姿かたちがすっかり見えなくなってしまうと、光は満足したかのように小さくしぼんで、消えていった。
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