第2話 転職クエスト

 暗い部屋。大きなスクリーンにパソコンのような機械がずらりと並んでいる。その一つに操作をしている男と、その横で槍を持っている男がいた。

「おい、あのスキル。プログラムいじったな。」

と槍の方の男が、少し怒り気味で言った。

「仕方なかった。彼には強くなってもらわないと…」

「そうかよ。」

と、しばらくの間沈黙が続いた。

「アイに託されてんだ。あの世界の運命は…」

すると、槍の男は何も言わずに部屋を出て行った。


 一週間の間、7回毎日クエストを行ってきた。毎回、先代勇者の討伐で、倒すことに慣れてきた。だが、奪えるステータスがだんだん減ってきた。アイが言うには、同じクエストだと、初回の時よりも、奪えるステータスが少ないらしい。そして、今のステータスの平均が、約2万にはなっているはずだ。普通のステータスがどれくらいかわからないが、なんとなく自分では、強くなった方だと感じていた。そろそろ階級調査をもう一度受けてみようと思った。

と、部屋でぶつぶつ考えていた。そういえばアイに聞きたい事があった事を思い出し、話を切り出した。

「アイ。聞きたいことがあるんだけど。」

『なんです?』

少し、聞くのが恥ずかしかったが、思いっきり聞いてみた。

「魔力ってなんなんだ?」

『魔力は、ステータスの平均値ですよ。』

普通に答えてくれて意外だった。いつものようにバカにしてくるかと思ったから。

「じゃあ、俺は今約2万の魔力を持ってるって事だよな。」

『そうです。でも貴方おかしいですよ。』

「なにが?」

おかしい節が見当たらず、率直な疑問になってしまった。

『全てのステータスを揃えようとするなんて。』

少し驚いてしまった。あまり深く考えずにステータスを加算していったから、別に気にもしてなかった。もともと整理整頓が好きだったからそうなったのかもしれない。

「あんま気にしてなかったけど、そうしてみようかな。」

『まじですかい。』

と、アイは思わず突っ込んでしまった。すると、部屋の扉をコンコンと、叩く音がした。部屋に春が入ってきた。春は少し嬉しそうにしていた。

「最近、兄さんモンスター探しに行ってないね。」

「そうだな。」

伊吹は少し罪悪感があった。まだ続けるつもりだから。春が嬉しそうにしていると、悩んでしまう。それを察したのか春は、

「辞めなくてもいいんだからね。ちゃんと帰ってきてくれれば。」

少し、涙が出てしまった。嬉しい反面悲しかった。春にそんな気遣いをさせてしまったから。か

「ああ。絶対に毎回帰ってくるよ…」

「うん!」

春は嬉しそうに部屋を出て行く。我ながらいい妹に育ったなと感じた。

『いい妹ですね。シスコンさん。』

「うるせっ。」

と言ったものの涙は止まっていなかったし、言葉も弱かった。

『そろそろ異世界クエストが始まります。』

唐突に始まりを言われびっくりしてしまった。

「わかった。」

『それでは、フィールドに移動します。』

毎回同じように、耐えられない重力がかかる。最近は慣れてきていた。

『特別回です。転職クエストが発生しました。』

「転職?!胸熱展開キタ!」

伊吹のテンションは盛り上がっていた。熱くメラメラの炎のように。

転職クエスト–––。大きなダンジョンに潜り、最上階にあるという転職の書を見つけなければいけない。だがもちろん、半分の階に中ボス。最上階にはボスがいる。転職クエストでは、ステータスは奪えないという。

『始めますか?』

「ああ、やろう!」

伊吹はいつにも増して張り切っている。転職システムは、RPG好きとしてはロマンの塊なのだ。

『フィールドを作成します。』

作成された場所は、砂漠で目の前にはでかい塔が建っていた。

「これがダンジョンか。何階まであんだ。」

『10階ですね。』

「やばいな。」

少し、恐怖に包まれた。その塔が発しているオーラは並のものじゃなかった。背筋が凍る。

 伊吹は、ダンジョンに潜る。一階には、モンスターが出てこない。ただ、地獄のような罠がたくさんあった。例えば、後ろから岩が襲ってくるとか、落とし穴の先が針地獄だったりとか、津波が襲ってきて、溺れかけたり大変だった。HPと、メンタルをごっそり持っていかれた。

「おい、これが一階の難易度かよ…」

2階に上がると、罠ではなくモンスターが出てきた。なぜか懐かしかった。これらのモンスターはスキル【獄炎ヘルフレイム】で楽勝だった。ここからは難なく5階まで上がることができた。5階には大きな扉があった。凄まじいオーラを感じる。ここに中ボスがいることがわかった。通ってきた階のモンスターが回復ポーションを落としてくれたため多少無茶してもいけると思った。扉の中に入ると、黒い鎧の剣士がいた。人間ではなかった。3mを超える身体に黒いオーラ。

「あれ。ほんとに中ボス?」

心の声が漏れてしまった。

『魔力は約3万ですね。雑魚です。』

「俺、2万なんですが…」

そんな会話をしていると、黒の剣士はスタッと一瞬で間合いを詰めてきた。伊吹も、一瞬でアイテムポーチから白夜を取り出して、黒の剣士の斬撃を受け取った。ギリギリと剣と剣の擦れ合いが生じている。ちなみに、白夜という武器は、白く、星のように輝きを放つ片手剣。アイテムポーチは何でも出し入れすることが可能なスキルだ。

 二人は一度距離を取る。

「力が強い…。獄炎!」

黒い炎を放つ。黒の剣士に直撃する。周りは黒い波の海になっている。だが、カタカタと歩いてそこから出てくる。

「マジか…無傷とか…」

出てきた黒の剣士は無傷だった。顔も兜をしていて表情がよく見えない。ダメージを与えているのかすらわからない。またも黒の剣士は向かってくる。右に大きく振りかぶって伊吹の目の前までくる。右の大振りを伊吹は、白夜で受けるが、圧で後ろまで吹っ飛ばされる。壁に背中をぶつけてしまう。

(まずい、次の攻撃来る!)

黒の剣士は、また斬りかかってくるがつぎは左の大振りだった。伊吹も左で受ける。が次はちゃんと受け止めて、右に流す。そして、伊吹は、空中に飛び、しっかり頭を狙えるようにした。最近手に入れたスキル【獄炎剣ヘルブレイド】を使う。

「獄炎剣!」

振りかぶった剣に、黒い焔が駆ける。白い剣が黒く染まっていく。黒の剣士の頭を狙って、振り下ろす。ザクッと頭から剣が刺さる。黒の剣士は、後ろに倒れていく。

「はあああ。倒したああ。」

伊吹は膝をついて、息を整える。でもまだ終わっていない。まだ10階には、これよりも強い相手が残っている。本当に勝てるのかと疑心暗鬼になってしまっていた。今までのモンスターよりも以上に強かった。伊吹は、回復ポーションを飲んで、全快になった状態で次の六階へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界クエストで現代最強 のんのん @sss-624

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ