第8話想定外2
「え……」
思わず漏れてしまった……
視線が必然であるかのように私に降りかかってくる。
どうしてこうなったの?
恥ずかしさで一番近くの空いている席に座ったけれど隣に座っちゃった。
どうしよう。
頭の中で色んな問題で沸騰しそうだ。
「あの子。先週面白かったね~」
どこからかそんな声と笑いが聞こえてくる。
本当に恥ずかしいな。
私は座った直後に下げた頭を上げる事ができなかった。
「はい!静かにな~今日は全員出席か!優秀だな~」
私の沈んだ気持ちとは正反対の明るく軽い声で話している。捉え方によっては凄く辛い。陰口を軽く注意する感じで終わらせられた気がするから。
これが私の被害妄想なのは良く分かっている。
この歳になってしっかりと発言できない私が悪いのだ。
「はーい」
さっき声を上げていた生徒達は特に悪く思ってる素振りはなかった。
「自己紹介してもらおうか悩んだけれどしてもらおうかな」
教室が静まったのを確認して矢野先生が切り出した。
多分この日の一番重要な情報を得れる機会だ。
しかし今の私にはそんな余裕はない。
「はい。最田 三条です。嫌いな物は無いですが……鬱陶しいのは人から下に見られたくないから誰かを下に見て笑う奴です」
その言葉に思わず顔が上がった。
驚いた。違う。ただただ嬉しかったのだ。
「ちょっと!何それ私の事?」
この台詞が耳に入ってきた時、申し訳無さがこみ上げてきた。
この人は私がこんなんで私を庇ったから快適なゼミでの生活が失われるかもしれない。
「いや。誰も貴方なんて言ってないですよ」
「なっ……」
名前を忘れたけれど女子生徒が顔を赤くして怒っている。
周りから見ればただの幼稚なやり取りに過ぎないと思う。
でもこの2回の授業は私にとって小さくない意味があった気がしていた。
「こらこら喧嘩させるために自己紹介してもらったんじゃないんだから」
矢野先生が子供をなだめるようにその場を制する。これにより少し腰を浮かせていた子は腰を椅子におろした。
最田さんは表情一つ変えず先生の方をじっと見ていた。
「なんなのあいつ!」
この捨て台詞が私に対して言われているような気がする。
私だけに言われているよりもっと深く心がえぐられた。
「えっと。今日は前期の中間レポートのグループ分けをしてもらいます!」
グループはすんなりと決まった。
仲いい子同士。積極的に人と関わろうとした人のグループ。自己紹介で何かしらがあったグループ。
どれに属する事になったのかは言うまでもなくだった。
「それじゃ!お題を言うね~今の日本の悪習!」
それぞれのグループで席についた事を確認し題をドヤ顔で提示した。
私ではあんまりパッと思いつかないな。
!!
隣で移動が無かったから忘れていたけれど最田さんとグループ同じだ。
どうしよう。いや私ではどうもできないけれど。
「矢野先生。世界の安全保障を絡めてですよね?」
生徒の一人が質問をしているが何か話しているなぐらいであんまり聞いていなかった。
気になっていた人。最田さんとグループを組むことになり気まずさでそれどころでは……
「いや絡めなくてもいいよ!まずは軽いお題をしてもらおうってだけだから!これを七回目の授業で各班発表してもらいま~す!」
「あの。すいません。名前聞いてもいいですか?」
最田さんが遠慮気味に名前を聞いてきてくれた。
しっかりと答えないと!
「あっ!はっはい!かっ上代 りっ凛です!先程はありがとうございます!」
またやっちゃった。
なんでこう肝心なときに……
肝心なときだからなんだろうけど。
「いや、助けたわけじゃないですよ」
この人は優しすぎる。
沢山損をしてきたような気がしてならない。
優しい人はいつも貧乏くじを引いてしまう。
例えば今回は私が貧乏くじ。
私がいなければこのグループが出来上がる事は無かったのだから。
そして神田さんと最田さんも他の人と笑って話していたんだと思う。
「私は神田 栞。よろしく」
私にというより最田さんに神田さんが凄く落ち着いた雰囲気で挨拶をした。
私もこれぐらい落ち着いてできればいいのにと羨ましく、そして悲しくなる。
「上代さんと神田さんですね!よろしくお願いします!」
「あっあの呼び捨て、タメ口でかっ構いませんよ……」
考えるよりも先に言葉が先に出ていた。
私自身もびっくりだ。
やっぱり駄目だったかな……
「そうですね。これからグループなんですから」
思わず下を向きそうになった時私にとって思わぬ言葉が飛んできた。
「それじゃお構いなく……」
嬉しいけれど小恥ずかしくまた下を向いてしまった。
けれど今までとは明らかに違う。
今は高揚感と安堵で私の胸の中は満たされていた。
最上 神無月 皐月 @May0531
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