第2話 雛龍の巣
これからパワー特化のパーティーでダンジョンへ行くのだが、念には念を持ってパーティーリーダーの金で特級回復薬10個を買い、侵入ダンジョンが龍の巣の為、政府から無償で信号弾を貰う。
特急回復薬10個で金貨5枚。俺が頼んで買わせた為、帰還する時にはこれ以上の成果を出さなければならない。
ただこれから行く雛龍の巣から上手くやって『雛龍の卵』を無傷で取ってくれば余裕で金貨10枚となる。
また、巣で万が一戦う事になっても龍を倒す事さえ出来れば、角や鱗で1個銀貨50枚相当になる。
そう、倒しさえ出来れば報酬がマイナスになることは無い。
「もう良いよな? じゃあ行くぞ」
「あぁ」
ダンジョンへの移動は難易度Cから無料で政府が馬車を貸し出しており、毎度それに乗って移動する。
そうして約1時間半で雛龍の巣に到着した。
巣の形は、半円形型の中身がくり抜かれたドームが5〜6個繋がった形で、一つのドームに2〜3個の巣が等間隔で作られている。
半径200m程度と言った所か。かなり巨大なら作りをしており、天井は親の龍が帰って来る為に大きな穴が開けられている。
また巣には既に幅3m高さ5mの巨大な雛龍の卵が巣一つに付き1個どっしりと乗っている。
「おいおい、アレが雛龍の卵かよ。あんなのどうやって持ち帰るんだ?」
「この信号弾を使うんだよ。ただ雛龍の卵の入手難易度はA〜Sだ。つまり、信号弾を打ち上げると漏れなく親龍が襲ってくる」
「へぇ。詳しいんだな。まさかその知識が役に立つって噂なのか? それなら損なんだが……」
「想像に任せる」
モンスターの素材入手難易度とは、F〜Sある。これの目安は極々単純で、ダンジョン難易度の目安を見て、どれだけ難しいかをランク分けしている。
「じゃあ、お前ら準備は良いか?」
「「おうよ!!」」
「じゃあ打ち上げるぜー! 親龍がなんだか知らねえが掛かって来いやぁあ!」
そういうとパーティーリーダーは天井の大きな穴に向かって信号弾を打つ。
この信号弾の意味は、どう見ても人の力をでは持ち運べない雛龍の巣の場所を、政府が常時派遣している
つまり、安全が確保されるまで運ぶ事が不可能の為、襲ってくる龍が一匹に限らないという事が入手難易度Sの理由だ。
信号弾を打ち上げて30分後、漸くそれが来た。赤い角と翼で羽ばたき、黄金の鋭い眼光を煌めかせ、真紅の鱗が太陽の光を乱反射させて、咆哮を上げながら雛を守ろうとパーティーの目の前に着地する。
「グオオオオォ!」
「来たぞおおぉ! てめぇら構えろおぉ!」
俺は早足で、荷物を持ちながら安地へ逃げる。さて、準備でもするか。
ただ単に名前を見れば最強スキル見えるが、実は使い方を知らなければ単なる偵察スキルにしかならない。
職業熟練度とは、職業に関わる凡ゆる関連知識を得る事で試験に合格して昇格できるシステム。
スキルとは単に技能の様な物で、魔法の様に特殊能力が使える訳では無い。
ただし、今から俺が使う固有特権とは、各職業の熟練度がSになった時に政府から貰える道具の力を使う物で、特に荷物持ちの固有特権は、一切のデメリットが無い最高で且つ使用方法が複雑な物になっている。
さっきも行ったとおり使い方を知らなければ単なる偵察スキルだ。
この
そう、完璧な偵察スキルが使える特権なのだ。
これで何が出来るって? 完封の準備だ。
これはあくまでも情報に過ぎないが、とりあえず必要な掘削道具やワイヤーとか、色々。その場で罠や武器を作る。
これは鉄製のサイコロの様な形をしており、念じればどういう原理なのか、どんな物にでも変形して作れてしまう。
ただ回復薬も勿論作れるが、消耗品をこれで作ると1日1回という制限が付くので滅多に作らない。
これで俺は破壊力抜群の大砲を作る。
手の平サイズだったサイコロは、膨張、回転、変形していき、あっという間に大砲が完成する。
そして、しっかり把握した龍の行動ルートに大砲を設置し、俺はパーティーに大声をあげる。
「お前らどけ!! ぶっ放すぞぉ!」
「ぶっ放すって何を! ……はぁ!? お前ら! 道を開けろおぉ!!」
「「うおおおぉ!!」」
突然道を開ける様子に龍は何かに気が付いたのか、俺の方に視線を向け、咆哮をあげる。
「グオオオオォ!!」
「くらえええぇ!」
特別な砲弾が入った大砲に火薬をぶち込み、火を付ける。
その間に龍は超低空飛行で俺に突進するが、到達直前に大砲の火薬が爆発と同時に大砲から強烈な一撃が発射される。
ドオォオン! という爆音を巣内に響かせると、砲弾は龍の頭部に直撃。ほぼゼロ距離で当たった砲弾は凄まじい爆風を巻き起こす。
「……!」
それは、たったの一撃で龍の頭部を破壊し、突進の勢いそのままに前のめりに倒させる。
「おいおいマジかよ……お前荷物持ちじゃねぇの?」
「あぁ、ただの荷物持ちだ」
と言うのは厳密には嘘で、俺は実は、もうすでに全ての職業を経験済みだ。薬剤師の万物生成で、『不老の秘薬』という幻の薬を生成して以来、俺の歳は32歳というなかなか中途半端な年齢に止まり、本来職業熟練度Sに到達するのに数十年かかるという物を実質ゼロにしている。
なんて、最初は不老の秘薬なんざ信じて居なかった。そんなもの幻以前の問題で、もしあれば誰もが求める薬だろうと。
だが、『不死』は無くとも『不老』は確かにこの世界において1万年前という遠過ぎる過去に確かに製法が存在していたというから、もしかしたら薬剤師の力で作れるのでは無いか? と思い、軽い気持ちで作ってしまった。
恐らく1万年前にあったと言われている不老の秘薬とは、あくまでも飲んだ誰かが、他の人より長く生き延びたという話から伝説化した薬なんだろう。
しかし、薬剤師の万物生成は、それを本当の『不老』に実現させてしまった。
それを飲んだ俺の身体の状態からして、そうとしか考えられない。
この世界に存在する6つの職業。それを全て熟練度Sに到達するには、1つの職業に最低20年掛かると計算すれば、120年。その年月が既に俺の身体には経っている事になる。
まぁ、誰もが夢に思う不老の薬で一番よく言われる問題で、余りにも長く生きすぎたせいで何年経っているのか忘れる。それこそが今の俺の状態と言える。
「えええぇ……まぁ、良いや。この龍の部位、貰っちまおうぜ! ……。クルス! 龍ってどうやって解体するんだ!?」
「龍の解体は政府に任せるんだ。俺らがやる事じゃあ無い。なんなら、この大砲でもう一発吹っ飛ばすって方法があるが、傷だらけになっちまうからな」
「そうか! じゃあ、これでダンジョン攻略終わりだああっ!」
それ以降新たな親龍が来る事は無かったので、空域竜騎士がすぐ様巣の上部から降下してきて、雛龍の卵を慎重に運び出す。
そうして俺とパーティーはアヴェン王国に帰還し、ギルドで報酬を受け取る。
・雛龍の卵(無傷):金貨30枚
・赤龍の角(2本):金貨1枚
・赤龍の翼(2枚):金貨1枚
合計 金貨32枚
「うっひょおおぉ! こんな報酬貰った事ねぇぞ! クルス! てめぇはぜってえただ荷物持ちなんかじゃねぇ! 俺ら3人でやってたら、きっとボコボコにしてたからな! これはお前の報酬だ。受け取れ」
「あぁ……」
報酬の分け前として半分の金貨15枚を貰った。実はあんまり嬉しいという訳でも無い。良くある事だ。
俺は最初はパーティーに小馬鹿にされながらもダンジョンに入り、ボス級のモンスターに出会ったら職業の固有特権でモンスター撃破。
そして、普通の荷物持ちでは無いとバレ、今の2パターンに分かれる。称賛されて分け前を貰うか、騙したとキレられるか。
最早慣れた展開。
「じゃあまたな。次雇う時は、料金割増しにしてやる。それくらいお前らなら稼げるだろ?」
「ハッ! おうよ! 次また雇うかも分かんねえが、超大金持ちになってやるぜえぇ!」
「「うおおおお!!」」
さて、今日は帰るか。家に帰っても特にやる事は無いが……。
最強の荷物持ち-Material carrier- Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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