第1話 いつもの仕事

 さて、いつもの仕事でもするか。俺はギルドに荷物持ちとして登録しているが、別に依頼とか受ける必要は無い。ただ荷物持ちとして登録さえしていれば、あとは大体屯してる場所を書き込んでおけば、向こうから誘ってくる。

 料金の指定はこっちが出来る。ただ高すぎると雇ってくれないから、うんと安くするしか無い。


 通貨は世界共通で、銅貨、銀貨、金貨の三つに分かれ、銅貨が一番安い。銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚。

 一般的に国民が一日の税金や食費に必要な金は銅貨10枚有れば足りる。

 で、職業別に稼げる金はこんな感じ。


・冒険者:銀貨1枚から

・旅人:銀貨10枚から

・戦人:銅貨10枚から、多ければ金貨1枚

・薬剤師:銀貨5枚から

・商人:銀貨1枚から、多ければ金貨10枚

・荷物持ち:銅貨1枚から運が良くて銅貨10枚


 最早最低賃金並み。てか最低賃金。政府からは最低でも報酬として銅貨1枚は義務付けられている。つまり、ただ働きさせた依頼人は罰を受けるっていうまぁまぁ、職業者に対して優しいシステム。

 つまりどんなに最低な仕事態度でも確実に稼げるって訳。

 そのまたつまりだ。稼ぎ効率が最も高い旅人でも情報無しの無能野郎でも銅貨1枚は稼げるって訳だ。

 旅人って確か報酬は政府から受け取るらしいけど? 報酬渡す側としては絶対嫌だよな。


 という訳で俺は登録者に大体酒場で屯していると書いといて、依頼人を待つ。

 大体待ち時間は二時間程度。

 そして戦人が来る。身体ムッキムキの黒肌のおっさん。多分30代くらい。


「おう、てめえがクルスか?」

「あぁ、そうだ。料金は銅貨2枚から。一時間に付き銅貨10枚。安いだろ?」

「ハッ! マジで安いんだなお前。超安くて意外と役に立つって噂聞いたんだけどよ、本当なんだろうな?」

「それはお前の腕次第だ。こちとら戦う能ねえんだよ」

「そらぁ、そうだよな。よし、買った! 仲間ァ、外に待たせてるからさっさと来い」

「あいよ」


 俺は何かとこのアヴェン王国では噂になっている。超安雇金で、役に立つ荷物持ちと。更に政府からお墨付き。なんならなんかくれよ。お墨だけとか要らんわ。


 そうして俺は依頼人の仲間と出会う。依頼人のパーティー構成は、パワー特化だった。大剣が先頭に立ち、後衛に大槌と大弓。三人とも仲良しで連携は良さそうだ。

 しかし盾役は何とかなるとして、回復役が一人も居ない。

 もしこの中に一人副職でヒーラーが居ても、緊急事態には全く無意味となる。


「回復役も雇って良いんじゃ無いか?」

「回復役ぅ? んなもん要らねぇよ! 俺達のパワー舐めんじゃねえぞ!」


 パワーこそ全て。それも一致団結か。恐らく今まで緊急事態も全てパワーで解決してきたのだろう。

 俺、今日が命日かな。


「それで、今回行くダンジョンは?」

「この前難易度Cの『盗賊の宝物庫』が問題なく行けたから、次は難易度Bの『雛龍の巣』に行くぜ!」


 難易度Cが行けたからBに行く。より高い報酬を得ようが為に生き急ぐ奴らが良くいる。


 ダンジョンには難易度が決められており、政府の調査隊がダンジョンの広さや潜んでいるモンスターの種類、モンスターの活動タイプを調査の上、難易度がF〜SSSで決められる。

 ダンジョンの難易度別の目安はこの通りとなっている。


F:ダンジョン攻略初心者でも、戦闘が不慣れでも確実且つ安全に攻略可能。

E:Fを効率的に素早く攻略出来、初級モンスターなら倒す事が可能な者に勧める。

D:初級モンスターなら簡単に倒し、戦闘に慣れて来た人で有れば攻略可能。

C:魔法や戦闘に慣れ、パーティー構成がしっかりしていれば攻略可能。

B:戦闘と魔法に長け、パーティー構成は勿論。戦術を考えなければ攻略は難しい。

A:臨機応変な対応や、仲間との連携。戦術から作戦を考えなければ攻略は出来ない。

S:戦術と作戦が一手先を読む程にあり、緊急的なリスクを完全に封じなければ攻略は至難。

SS:完璧な作戦に完璧な連携。凡ゆる事態を想定しなければ攻略は不可能。

SSS:完璧な作戦と連携は必須。凡ゆる全ての事態を認知しなければ全滅必至。


 大体こんな感じ。特にS以降の難易度はダンジョンは存在するも余りに危険な為、一切の情報が無い。つまり、事態を予測しろというのは、現地で予測しろという事になる。

 因みに俺は今までに難易度Aのダンジョンが最高だ。Sなんて行こうとする奴は、名の知れた軍師レベルだろう。


 さて、これからこのパーティーで行く『雛龍の巣』は、前回俺が行った時はAだったが、Bにランクダウンした。

 その理由はダンジョン名にもある通り、雛龍の巣だからだ。Aの時は成龍の巣という名前だった。簡単に言うと、現在子育て中の巣という事。

 ただあくまでも雛龍の巣の為、親の龍が襲ってくる可能性は低くは無いとも考えられる。

 まぁ、このパーティーはそんな事一片足りとも考えていないだろうな。


「なら、回復役は持ってるか? 罠は?」

「だーかーら! んなもん要らねぇって言ってんだろう? 俺達のパワー舐めんじゃねえぞ!」


 あくまでも話を聞かないか。これはもう諦めるしか無い。大人しく行先を見守ろう。


「じゃあ行くぜお前ら!」

「「うおおおぉ!!」」

「お、おう……」

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