ノート1.12 215,590作品って、いつ読まれてるの?

(注意)本作のデータは全て2021年1月19日から20日にかけて取得されたものです。


 ――――――――――――――――


 現在の時刻は、午前4時を回ったところだ。


 俺――研究所主任研究員マッドサイエンティスト草薙くさなぎタケルは、常夜灯しか灯っていない真夜中の研究室に1人、椅子に座って計算機パソコンの前に張り付いていた。


 照明が強制的に落とされているせいで周りは暗く、10メートル先も見えない。俺は怖がりな性格なので普段なら不気味に思っただろう。しかし、今はそんなことどうでもよかった。俺はそれほど目の前のモニターに釘付けだったのだ。


 何故こんな時間に作業しているかと言うと、バージョンアップしたカクヨムのデータ収集アルゴリズムが正常に動作しているかを確認するためだ。


 以前作成したカクヨムの情報を集めるアルゴリズムに、カクヨムの情報を集めるアルゴリズムに使用しているテクニックを適用し、超並列化を施したのだ。


 これにより、データ収集効率は概算で13倍を達成。


 11万ユーザーのデータを集めるのに24時間以上かかっていたが、新しいバージョンだと2時間もかからない。しかも、集めているデータの内容は以前よりもリッチになった。


「これで、『カクヨムユーザーの生態』をアップデート出来る日も近いな。ふふふ……」


 などと1人ほくそ笑んでいたとき――


「わっ!!」

「うわああああああぁぁぁぁ!!?!??」


 予期せぬ突然の叫び声に俺は驚き、椅子から滑り落ちるように地面へと転落した。


 悪魔か!? 幽霊か!!? 俺の邪気眼が魔物を吸い寄せたのか!??


「ビックリしたー?」

「け、ケイコちゃん!!」


 俺が尻餅をついた痛みをこらえながら顔を上げると、そこには研究助手アシスタントとう景子けいこがしたり顔で仁王立ちしていた。


「脅かさないでくれよ。お化けかと思ったじゃないか!」

「ごめんごめん。これほどオーバーリアクションされるとは思ってなかったのよ」


 俺は気分を落ち着けてから、ゆっくりと椅子に腰掛けた。


「なんでこんな時間にケイコちゃんがいるんだ?」

「なんか、前回の研究ノートの続きがどうしても気になっちゃって眠れなかったの。それで、ふとタケル君のGPS情報を見たら研究室にいることが分かったから、こっそりやって来たって訳」

「ん? なんか気になることをさらっと言ったな。GPS――」

「そんなことより、カクヨムの『読み手』がどんな時間に小説を読んでるのか調べたんでしょ? その方法も含めて早く私に教えてよ」

「分かったよ。今はアルゴリズムのテスト中で、終わるまでには時間がかかる。空き時間に研究ノートを読み進めるとしよう」

「わーい、やったーっ!」

「まずは復習だ。前回の研究ノートでは、カクヨム小説215,590作品がどの時間帯に更新されているのかを調べたぞ。そのデータを再掲しておこう」


 ――――――――――――――――

 統計情報:更新時刻別作品数(2021年1月20日)

 ――――――――――――――――

 最大値:17,071作品(22時00分~22時59分)

 最小値:2,309作品(5時00分~5時59分)

 平均値:8982.92作品

 中央値:7,943作品

 ――――――――――――――――


 ――――――――――――――――

 統計情報:更新時刻別作品数分布(2021年1月20日)

 ――――――――――――――――

 0時00分~0時59分:13,663作品 (6.34%, 6.34%)

 1時00分~1時59分:8,021作品 (3.72%, 10.06%)

 2時00分~2時59分:5,230作品 (2.43%, 12.48%)

 3時00分~3時59分:3,497作品 (1.62%, 14.11%)

 4時00分~4時59分:2,476作品 (1.15%, 15.25%)

 5時00分~5時59分:2,309作品 (1.07%, 16.33%)

 6時00分~6時59分:3,338作品 (1.55%, 17.87%)

 7時00分~7時59分:5,260作品 (2.44%, 20.31%)

 8時00分~8時59分:7,051作品 (3.27%, 23.58%)

 9時00分~9時59分:6,062作品 (2.81%, 26.40%)

 10時00分~10時59分:6,793作品 (3.15%, 29.55%)

 11時00分~11時59分:7,481作品 (3.47%, 33.02%)

 12時00分~12時59分:9,709作品 (4.50%, 37.52%)

 13時00分~13時59分:7,697作品 (3.57%, 41.09%)

 14時00分~14時59分:7,865作品 (3.65%, 44.74%)

 15時00分~15時59分:8,639作品 (4.01%, 48.75%)

 16時00分~16時59分:9,295作品 (4.31%, 53.06%)

 17時00分~17時59分:11,185作品 (5.19%, 58.25%)

 18時00分~18時59分:12,705作品 (5.89%, 64.14%)

 19時00分~19時59分:12,748作品 (5.91%, 70.05%)

 20時00分~20時59分:14,505作品 (6.73%, 76.78%)

 21時00分~21時59分:16,533作品 (7.67%, 84.45%)

 22時00分~22時59分:17,071作品 (7.92%, 92.37%)

 23時00分~23時59分:16,457作品 (7.63%, 100.00%)

 ――――――――――――――――

 合計:215,590作品 (100.00%)

 グラフ情報

 https://pbs.twimg.com/media/Es5sfokU0AMaaYx?format=jpg&name=large

(ツイート本体:https://twitter.com/t_kusanagi/status/1355140418128646145)

 ――――――――――――――――


「確か、ピークは22時って話だったわね」

「その通り。さて、ここからが今日の内容だ。

 一体どうやって、カクヨムの『読み手』が小説を読んでいる時間を調べたのかについて説明しよう」

「『小説家になろう!』だと、公式が提供しているアクセス解析で読んでる時間帯が分かるのよね」

「うん。しかし、カクヨムではその手が使えない。カクヨムが提供しているPV数は単にアクセスがあった数だけで、他に補足的な情報が一切無い。

 もしカクヨムのPV数で時間帯を解析しようと思ったらGoogle Analyticsが必要になるが、それは『書き手』自身の特権で外部から手を出せる代物ではない」

「じゃぁ、どうやったの?」

「今回用いるデータは、研究ノート1.5で調査した応援数だ」

「あ、なるほど。応援ね!」


『ノート1.5 215,590作品って、どれくらい♡をもらってるの?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055450204744/episodes/16816410413898307006


応援ボタンが押された時間は、ユーザー名と共に誰もが閲覧することが出来る。このボタンはそのエピソードを読み終わったときに押されると考えて差し支えないので、この時間を調査することにしたんだ」

「って言うことは、時間を全部記録してたの?」

「もちろん」

「やることなすこと、抜かりが無いわね……」

「ここで、応援数について過去の研究ノートから諸々の数字を復習しておこう。まずは基本的な統計量だ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:応援数(2021年1月20日)

 ――――――――――――――――

 総数:♡38,903,130

 最大値:♡697,859

 最小値:♡0

 中央値:♡3

 最頻値:♡0

(平均値:♡180.45)

 ――――――――――――――――


「次は、PV数と応援数の比率だ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:2021年1月20日

 ――――――――――――――――

 PV総数:2,448,768,634PV

 ♡総数:♡38,903,293


 38,903,293 / 2,448,768,634 × 100 ≒ 1.59 [%]

 ――――――――――――――――


「つまり、PV数――閲覧行動の約1.59%分を調査したことになるのね。ちょっと少なくない?」

「約3千900万サンプルあるし、流石に十分だろ」

「あ、そっか」

「それじゃぁ、どの時間帯に応援ボタンが多く押されたのか、実際のデータを見てみよう」

「待ってました!」

「なお、応援ボタンがカクヨムに実装されたのが2016年9月12日だから、それ以降のデータだぞ」

「了解」


 ――――――――――――――――

 統計情報:時間帯別応援回数(2016年9月12日~2021年1月20日)

 ――――――――――――――――

 0時00分~0時59分:♡1,972,574 (5.07%, 5.07%)

 1時00分~1時59分:♡1,396,344 (3.59%, 8.65%)

 2時00分~2時59分:♡978,638 (2.51%, 11.16%)

 3時00分~3時59分:♡723,183 (1.86%, 13.02%)

 4時00分~4時59分:♡580,271 (1.49%, 14.51%)

 5時00分~5時59分:♡624,380 (1.60%, 16.12%)

 6時00分~6時59分:♡962,489 (2.47%, 18.59%)

 7時00分~7時59分:♡1,524,138 (3.91%, 22.50%)

 8時00分~8時59分:♡1,608,098 (4.13%, 26.63%)

 9時00分~9時59分:♡1,480,326 (3.80%, 30.43%)

 10時00分~10時59分:♡1,529,069 (3.93%, 34.36%)

 11時00分~11時59分:♡1,555,242 (3.99%, 38.35%)

 12時00分~12時59分:♡2,244,463 (5.76%, 44.12%)

 13時00分~13時59分:♡1,734,666 (4.45%, 48.57%)

 14時00分~14時59分:♡1,609,457 (4.13%, 52.70%)

 15時00分~15時59分:♡1,643,749 (4.22%, 56.92%)

 16時00分~16時59分:♡1,671,869 (4.29%, 61.22%)

 17時00分~17時59分:♡1,826,933 (4.69%, 65.91%)

 18時00分~18時59分:♡2,001,730 (5.14%, 71.05%)

 19時00分~19時59分:♡2,080,432 (5.34%, 76.39%)

 20時00分~20時59分:♡2,260,852 (5.81%, 82.20%)

 21時00分~21時59分:♡2,373,403 (6.09%, 88.29%)

 22時00分~22時59分:♡2,371,490 (6.09%, 94.38%)

 23時00分~23時59分:♡2,187,159 (5.62%, 100.00%)

 ――――――――――――――――

 合計:♡38,940,955 (100%)

 グラフ情報:

 https://pbs.twimg.com/media/Es-0A0pU4AkBovh?format=jpg&name=large

(ツイート本体:https://twitter.com/t_kusanagi/status/1355501036648099849)

 ――――――――――――――――


「あれ? なんか合計が前のデータと違うわ」


(研究ノート1.5)♡38,903,293 VS ♡38,940,955(今回)


「気がついた? でも、これは合ってるんだ」

「どういうこと?」

「ケイコちゃんは、応援をキャンセル出来ることは知ってるよね」

「えぇ」

「後は、ユーザーがカクヨムから退会するとそのユーザーが行った応援は消失する。研究ノート1.5ではそういったキャンセルされた応援はカウントしてないんだけど、今回はそれらを全て復元してデータに含めている。これが合計値の差の原因だ」

「あぁ、そっか。応援がキャンセルされたからといって、最初に応援した時間に読んだという事実は変わらないものね」

「そう言うことだ。ただし、あくまで2021年1月4日(※初めてデータを収集した日付)から20日にかけて検知したキャンセル分だけで、全てのキャンセルを復元したわけではない。そこは誤解しないでね」

「分かったわ。それで――この表、滅茶苦茶見にくいんだけど!」

「ごめんごめん。そう言われると思ったので、ちゃんと見やすいデータを用意したよ。ほら、これだ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:1時間前の時間帯との変化率

 比較:215,590作品の更新時間別作品数 VS 応援

 ――――――――――――――――

 0時00分~0時59分:16.37% > 9.04%

 1時00分~1時59分:-33.05% < -24.28%

 2時00分~2時59分:-16.35% > -17.60%

 3時00分~3時59分:-10.15% > -10.76%

 4時00分~4時59分:-5.98% > -6.02%

 5時00分~5時59分:-0.98% < 1.86%

 6時00分~6時59分:6.03% < 14.25%

 7時00分~7時59分:11.26% < 23.66%

 8時00分~8時59分:10.49% > 3.54%

 9時00分~9時59分:-5.79% < -5.38%

 10時00分~10時59分:4.28% > 2.05%

 11時00分~11時59分:4.03% > 1.10%

 12時00分~12時59分:13.05% < 29.04%

 13時00分~13時59分:-11.79% > -21.48%

 14時00分~14時59分:0.98% > -5.28%

 15時00分~15時59分:4.53% > 1.44%

 16時00分~16時59分:3.84% > 1.18%

 17時00分~17時59分:11.07% > 6.53%

 18時00分~18時59分:8.90% > 7.36%

 19時00分~19時59分:0.25% < 3.32%

 20時00分~20時59分:10.29% > 7.60%

 21時00分~21時59分:11.88% > 4.74%

 22時00分~22時59分:3.15% > -0.08%

 23時00分~23時59分:-3.60% > -7.77%

 ――――――――――――――――


「この表はどう読めばいいのかしら?」

「パーセントが表しているのはその時間より1時間前の時間帯と比較したときの変化率だ。

 例えば『0時00分~0時59分』の場合、1時間前の『23時00分~23時59分』と比較して作品の更新数が16.37%増加、一方で応援は9.04%増加したことを表している。『1時00分~1時59分』の場合だと、1時間前の時間帯に比べてそれぞれ-33.05%と-24.28%減少していることが分かる」

「なるほど。つまり右側のパーセントは、その数字が大きければ大きいほど『読み手』がたくさんカクヨムの小説を読みに来てるってことね」

「そういうこと!」

「特徴的な時間帯はどこかしら?」

「まずは朝の時間帯だ。

 作品の更新数は6時から、『読み手』の数は5時から増加に転じており、少し時間帯が早いことが読み取れる。そして、『書き手』側である作品は8時までコンスタントに更新数が伸び続けるのに対し、『読み手』側は7時で頭打ちだ。

 これが意味するのは、『朝の読者を狙うのに8』と言うことだ」

「マジでか! 確か、朝の予約投稿って8時がピークだったわよね。うはー……」

「次はお昼間だ。ここが最大の特徴と言っていい。

 12時の時間帯は両方で伸びてるが、。つまり、俺たちが思っている以上に『読み手』はのさ」

「なんですって!」

「ある意味、朝の8時以降に投稿された作品がここで消費されてると思ったらいいかもしれない。ただ、ダイレクトに正午の読者を狙い撃ちにしたければ、12時周辺で更新するのが当然ベストだろう」

「いやはや、驚きの事実が次々と……」

「最後は夜。

 作品更新の増加率は21時頃にピークを迎えるが、一方の『読み手』は20時にピークがやって来て、そこからの増加率は鈍い。22時には早くもマイナスになってしまうことから、『読み手』はお布団に向かう時間が『書き手』よりも早い傾向にあることが判明した。

 しかし、『読み手』の増加率は0時に再びプラスに転じることから、0時更新の作品を楽しみにしている『読み手』も結構いることが分かるな」

「これは凄い。ここまでハッキリ分かるなんて思わなかったなー」

「ただ、これはあくまで応援数ベースであることに注意して欲しい。別に応援ボタンは小説を読んだ直後じゃなくても押せるので、そう言ったノイズが入っていることは頭の隅に置いておいて欲しい」

「とは言え、かなり参考になる情報なのは間違いないわ。私は『読み専』だからあんまり関係ないけど、『書き手』の人にはきっと重宝するね!」




「どう? 満足してくれた?」

「大満足よ。これで今日はスッキリ寝られそうだわ」

「と言っても、もう朝の5時になりそうだが――ほら、研究所のが解かれて部屋の電気がついたぞ」

「最後に1つ、質問してもいい?」

「ん? なんだ?」

応援ボタンを押すのって『書き手』が中心のイメージがあるんだけど、そのせいでデータが偏ってるって事は無いかしら?」

「それはあり得ないな。間違いなく『書き手』も『読み専』もふんだんに含まれたカクヨム全体の傾向だ」

「なんでそう言い切れるの?」

「それは次のようなデータがあるからさ――」


 ――――――――――――――――

 統計情報:2021年1月20日までに応援ボタンを1回以上押したユーザー数

 ――――――――――――――――

 218,227ユーザー

 ――――――――――――――――


「わっ! 最後にとんでもない数字が!!」

「ユニークユーザーとは、応援ボタンを1回以上押したユーザーを重複無くカウントした数だ。つまり、ケイコちゃんが10エピソードだろうが1,000エピソードだろうが応援ボタンを押しまくったとしても、それは単に 1 ユニークユーザーとして数えられてるぞ。

 ノート1.1によると『書き手』は僅か65,202人しかいないから、詳細に調べるまでもなくたくさんの『読み専』がいることに疑いの余地はない」

「そうだったのね。納得したわ」

「さて、テストプログラムの方はどうなったかな? ――あっ!」

「どうしたの? タケル君」

「……凄い数字を見てしまった。これを見てくれ!」

「どれどれ……えぇっ、本当に!?」


 俺とケイコちゃんが何を目撃したのか、その真実を開示するのはちゃんと準備が整ってからにしたい。少なくとも『カクヨムユーザーの生態~111,402人分のデータを分析してみた』のタイトルが大幅に変わることだけは間違いない、とだけ言っておこう。


 ……そこっ! 『218,227ユーザーを検出してる時点で分かってるわ』って野暮なツッコミは無しだよっ!



 ――――――――――――――――

 今日の研究ノートまとめ

 ――――――――――――――――

 ・応援に時間が記録されていることを利用して、『読み手』がいつ小説を読んでいるかについて調査

 ・基本的に『読み手』のバイオリズムは『書き手』に比べて早い

 ・『書き手』の皆さんは投稿戦略を練り直すも良し、そのまま続けるも良し! このデータを有効活用してね!

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