第2話 自己紹介と字の綺麗な後輩
文実の全体会は週二回、火曜と金曜の18時から行われる。参加は強制ではない為、出席率は僕たち二年生でも半分を切る。先週金曜の説明会から土日月と挟んで、今日は一年生を迎えて初の全体会開催日だ。
委員会室は大体30人も入ればいっぱいになるので、全体会は大学の教室を借りて行う。
本来全体会での座席は自由なのだが、初回の今日に限っては二年生同士、一年生同士で固まり過ぎないように、僕達二年生は数人のグループを作ってある程度ばらけて座っている。
「女の子が近くに座ってくれるといいよな」
「女子は二年の女子の近くに座るだろ普通」
「もっと余裕を持てよ、サネ」
「マキ。ドクがうざいんだけど」
「水泳部の新入生と連絡先交換したらしい」
「ドクがバイト中のコンビニにその子がコンドーム買いに来る呪いをかけた」
「やめて!」
僕は今日も今日とて、サネともう一人の親しい友人
サネにはああ言ったが、僕だって後輩女子が近くに座ってくれる事を願っている。だからコンドームとか声に出すな、寄って来なくなるだろ。
結局僕達の周りは後輩男子で埋まった。
この日の全体会は、前半では一年生に流れを見せるために簡単な議題のレジュメ検討を行い、後半には各部毎の紹介とそれを受けて一年生にどの部に入りたいかのアンケートを取った。
後輩達がこの段階で入れる部は三つ。
『広報宣伝部』は、その名の通りパンフレットや看板にポスター等で広報と宣伝を担当する他、文化祭当日の構内装飾なども行う。
『委員会企画部』は、文実主導の企画を担当し、オープニングとフィナーレのセレモニーもここが主導する。
『出展企画部』は、部活やサークル等の出し物や模擬店などを管轄する、因みに僕が所属するのはここ。
残る二つは芸能人を呼ぶ企画の担当の『招待企画部』と説明不要の『財務部』だが、1年生がこの二つに入るのは夏休み頃からだ。
アンケートを取り終わると今日の全体会は終わりとなる。一年生はここでさようならだが、二年生は各部ごとに集まって部会を行う。といっても文化祭まで半年以上ある今の内から急いで話す事などなく、話題は当然一年生の事になる。
「紹介上手く出来たかな? 一年生ちゃんと来てくれるかな?」
「ちょっと噛んでたけど大丈夫でしょ。来てくれるよ」
出展企画部長の
「可愛い子多かったな」「カッコいい子も結構いた」「一年生来てくれるといいな」「残ってくれるといいね」などなど。新歓担当がアンケートを集計している間で、部会と言う名の雑談大会が開かれている。
「集計終わったよー。出展企画希望はこの子たち。多分これなら調整無しで全員希望の部に入れるかな」
サネとドクとくだらない話をしていると、新歓担当が出展企画希望者分のアンケート用紙を持ってきてくれた。各部の希望者に偏りが出ると、全員を第一希望の部に入れてあげる事は出来なくなるが、今回はその心配は無かった事に、僕を含め聞いている皆がホッとしたようだ。
「ありがとう。良かったよ」
部長の隆が心底ホッとした様子でアンケート用紙を受け取り、机の上に広げて行く。僕達も近づいて用紙に目を通していくが、先程近くに座った一年生しか知らない状況では見知った名前などほとんど無かった。
「あ」
隆の手が滑ったらしく、一枚のアンケート用紙が机からヒラヒラと落ちた。ちょうど僕の足元に落ちてきたそれを拾って内容に目をやる。
『君岡美園 人文学部社会学科』
机の上に広げられた用紙の方には女の子特有の丸文字が多い中、この君岡さんの用紙はお手本のように綺麗な字で書かれていた。
「ああ、ごめん」
拾った用紙を中々机に戻さない僕に視線が集まっていたのに気付き、軽く謝って用紙を机の上に置いた。
「知ってる子?」
「いや」
ドクの質問に首を振って答えたが、字が綺麗だったから見ていたとは何となく恥ずかしくて言えなかった。
◇
水木が過ぎて金曜日、一年生を交えての第二回全体会の開催日だ。今日の全体会も前半は前回同様に、一年生へのデモンストレーション的な簡単なレジュメ検討で、後半は彼らを交えて各部に別れての自己紹介の予定になっている。
因みに今日が初参加の一年生もいるが、彼らにはアンケートを取らずに希望の部にそのまま合流してもらう。各部の希望人数に偏りがなかったお陰でここもスムーズだ。
部ごとに別れて自己紹介タイムが始まったが、二年生の自己紹介など聞かなくてもわかるので一年生ばかりを見ていた。前回近くに座った一年生も何人かはこの部に来てくれたようで少し嬉しい。あとは可愛い子がいるといいなあと思って見渡していると、一際可愛い女の子を見つけた。
ダークブラウンの毛先を少し巻いたあの子は確か、説明会の時にも見た。などと思っていると、またもやその子と目が合ってしまった。どうせ自己紹介をしている二年に注目が集まるだろうからとジロジロと見過ぎたかもしれない。
そんな僕の気まずさを知ってか知らずか、彼女は前回同様ニコリと微笑んで会釈をしてくれた。僕も慌ててペコリと会釈を返したが、これではどちらが上級生かわからない。
恥ずかしい思いをしていると、横に座っているサネが肘で小突いてきた、うるさいなほっとけよ。
「マキ。お前の番だぞ」
「え?」
「マッキーの番だよ。一年生の前なんだからぼーっとしないで」
隆からも言われてしまい、二年生組は笑っているが、一年生はそうでもない。いい子達だ。
サネはからかうつもりではなく、僕の番を教えてくれていたらしい、ちゃんと言え。心の中で完全な責任転嫁をして立ち上がり、僕は自己紹介を始めた。
「
さり気なく話しかけてくれと要望を出し、短い自己紹介を終える。最初の一歩を踏み出せない僕にとっては非常に重要な要望だ。
ぱちぱちと拍手が聞こえる中、サネは「真面目か」とツッコミを入れてきた。お前はさぞ面白い自己紹介をするんだろうな。
結局サネの自己紹介は滑った。
自己紹介は進み、二年生全員が終わり、今一年生も半分ほど終わったところまできた。
そして先程の彼女の番がついにやって来た。他にも可愛い子はいるが、僕の見た範囲ではこの子がぶっちぎって可愛い。
「
可愛くて品があって字も上手い、それが君岡美園さんの第一印象だった。
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