乙女ゲームのヒロインとして転生するはずでしたが、即殺害されて天界で過ごすことになりました。

池中 織奈

乙女ゲームのヒロインとして転生するはずでしたが、即殺害されて天界で過ごすことになりました。

「本当に、申し訳なかった!! まさか、他の転生者が生まれてすぐの君を殺すなんてっ!!」

「いえいえ、私もまさかの予想外でしたし。というか、天使様がそんなに簡単に頭を下げちゃいけないんじゃ……」

「いえ、頭は下げますよ!! そもそも私の上司の神が貴方を誤って死なせてしまったからこその転生だったのにっ。それで転生先で生まれてすぐに殺されてしまうなんてっ!! なんて、お詫びしたらいいか」




 私は……えーと、日本で生まれ育った女子高生だった。そのころの名前は香坂南海という。




 クリスマス。

 家族や恋人、友人たちと過ごす特別な日。

 そんな日に私は――、突然死んだ。原因は死んで説明をされるまで死んだ原因が分からなかった。






 だって私、普通に歩いていただけだったもの。

 転生トラックに轢かれたわけでもなく、ましてやトラック以外の乗り物に轢かれたわけでもない。過労死したわけでもないし、寝不足でフラフラして死にそうだったわけでもない。上空から隕石が落ちてきたとかそういう天候的な要因もなく、階段から滑って落ちたや歩いていてこけたということもない。

 なら何故死んだかというと、下界に遊びに来ていた神が誤って放ってしまった不可視の魔法で切断されたらしい。即死だったそうだ。











 やべ、しまったと思った神はなんとかその魔法を回収したらしいが(私が死んだ後)、私はもう死んでしまっていたために、転生させてもらうことになった。

 誤ってそんな目に遭わせたのならば、元に戻してほしいと思ったものの、どうしようもなかったらしい。

 嘆いても泣いてもどうにもならないと断言されてしまった。あとやらかした神様が流石神と言うべきか、割と適当だった。










 寧ろ神様についている天使のお兄さん――今、目の前で土下座せんとばかりに頭を下げている人――の方が親身になってくれた。

 上司を選べないというのは何処の世でも一緒なのだという嫌な現実を知った。






 さて、私は転生することになった。本来ならば、転生には時間がかかるものらしい。順番待ちをしてようやく生まれ変われるのが通常らしい。

 また私は神様の不注意で死んでしまったから天界でも人型を保っていて会話が出来ていたが、本来ならそんなことは出来ずにただ順番を待ち、転生するという魂の巡回をしていくことになるそうだ。




 それで私はどうせなら今までと違う生活をしてみたいと望んだ。また友人から乙女ゲーム転生というのが流行っている物語なのだと聞いていたので、その友人に進められてやった乙女ゲームに似ている世界に転生したいと望んだのだ。

 神様のミスでの死亡だったので、その希望は通った。なにやら天使のお兄さんが頑張ってくれたようで、「多少の無理をいってもいいですよ。こちらの責任なので」と言ってくれてた。いい人だった。




 とはいえ、あまりにも無茶を言い過ぎても悪いのでヒロインへ転生するというのと魔法の世界だというので魔法の才能を伸ばせるようにはしてもらった。あとは言語に関することとか些細なものをいくつかもらった。もっとチートとか望んでもいいなどと言われたが、そこまでするのはと思ったのだ。






 で、私は「幸せになってくださいね!!」と笑顔で見送る天使のお兄さんに見送られて転生したのだが――――。








「……旦那様、お生まれになりました」

「そうか」




 聞こえてきたのは、我が子が生まれたというのに平坦な声だった。子供が生まれるというのは喜ばしいことのはずだけれども……、私はあかない目を必死に開けようとする。

 もちろんだが、生まれたばかりなのではっきりと見えるわけではない。父親らしき人が居るのは分かるけれど、後の人は? あと、母親は声をあげていないけれども……。






「いやあああああああ」

「アリー、どうか気を確かに持つんだ」

「奥様っ」




 って、どうしてお母様らしき人は泣き叫んでいるの? そして気を失ったっぽい? どうして? 意味が分からない私。そもそも生まれたばかりであたりをきょろきょろしか出来ない。

 意味が分からないまま呆然とする私。







「まさか、あの子の言う通りのだなんて……。ああ、どうか許してくれ、我が子を手にかける父親をっ! しかし、災厄をもたらすものを許すわけにはいかないのだ」









 はい? お父様、何を言ってるの!? と思った私は悪くない。







 私の転生先に選んだヒロインは比較的平和な乙女ゲームの世界のヒロインだ。友人が言うには乙女ゲームの世界では世界の命運がヒロインに掛かっていたり、攻略対象が病み過ぎていてやばかったりするらしいが、これはライトな乙女ゲームである。







 悪役令嬢への断罪はルートによってはあるらしいが、正直そのあたりはこれからの行動次第でどうにでもなると思っていたので気にしてなかった。だって此処は似ている世界であって、ゲームの世界ではないのだから。

 なので、私自身の行動でもどうにもならない要素がない世界に転生したはずだ。









 なのだが、私は抱えられて裏庭に連れていかれた。

 そして、目に映ったのは涙しながら剣を振り下ろす父親。








 ……私は気づいたら天界に舞い戻っていた。

 そして天使なお兄さんが全力で謝り倒している。今ここである。








「え、ええと、天使のお兄さん。私は何で殺されたのでしょうか……」

「それがですね………。あの乙女ゲームに酷似した世界の中で悪役令嬢として生まれ変わった令嬢がいるのです。乙女ゲームの記憶を持ち合わせたまま生まれ変わったものが……。たまに神の介入もなしに転生することがあるのですよ。そうすることによって、魂の疲弊を抑えたりするような効果があるのですが……」

「あの世界の悪役令嬢というと、姉になるはずだった女の子とあとは他に数名いますよね」

「そうです。その記憶を持っていたのが貴方の姉になるはずだった方でして……生前散々乙女ゲームの悪役令嬢断罪ものの物語を読みふけっていたようで、『ヒロインがそもそもいなければ私は死なない!』と恐ろしいことを考えたようで……」

「ええええ!? というか、それで何故、その、両親が聞くんですか? 普通、妹を殺害しようとする姉とか怖すぎません?」






 乙女ゲーム転生ものが大好きでたまらなかった転生者らしい姉になるはずの存在のせいで、私は転生後すぐに殺されてしまったらしい。なんてこった。

 というか、普通に考えて怖すぎない? 生まれたばかりの妹を殺そうとするってか、殺すって。

 普通なら両親が止めるべきじゃない? 寧ろ姉の方が危険だよ! そもそも元日本人がそんな即殺すって発想しているとか怖いんだけど。




 私は姉になるかもしれなかった人――転生後すぐ殺されたので姿さえも見てないその存在のことを思ってガクブルである。普通に怖いと思う。








「そうですね!! 恐ろしい話です。本当にあんな転生者がいることを調べてもいなくてすみません!! もっと人を殺してたりしたら流石に分かったのですが……」






 初めての殺人教唆が妹かよ。なんて恐ろしい令嬢だ。というか、あれだよね。悪役令嬢って確かヒロインの五歳ほど上だよね?










 昔からヒロインとの折り合いが悪くて、ヒロインが生まれた事で両親の愛が取られたと思っていて、嫌がらせを度々してきて、幼いころは可愛いものだったけれど――、悪役令嬢の婚約者がヒロインのことを好きになってしまい、その結果殺害未遂とかに繋がって、断罪されるだったはず。

 学園ものではなくて、王宮でラブストーリーを繰り広げるっていう物語で攻略対象は上から下までいたはず。






 ……ヒロイン殺す必要あるの? 転生者だっていうなら虐めなきゃいいじゃん。仲よくすればいいじゃん。それが何故殺すの。虐めよりタチ悪い。というか、本当怖い。マジ怖すぎるでしょ。











 やっぱり怖いよ!

 五歳児で妹殺害示唆とか、災厄ってその姉だろう。としか思えない。






「どうやらあの転生者は幼いころより才覚を出しており、未来を充てる力を持つ特別な存在として知られていたようです。おそらく乙女ゲームの知識を使っていたのでしょう。それで王妃の殺害を阻止したり、災害を予知したりしていたようです。

 よっぽどその乙女ゲームをやりこんでいたのでしょう。驚くべき程の詳しさです。様々なことを当てたことで『予知の姫』と呼ばれているようで……。その『予知の姫』が生まれてくる妹が国に災厄を及ぼすと一年ほど前から言っていたのです。それも過去を見てみると巧妙に、「夢で見たの。恐ろしい夢を」と前兆を幾つも作っていったようですね。また、あえて見過ごしたものもあったようで、悪い事は全て生まれてくる妹のせいと言い張って、信憑性を高めたようです」

「こわっ!!」











 天使のお兄さんの説明を聞いて私の口から出た言葉はそれである。というか、怖すぎない? なんなの、その絶対に私を赤ちゃんのうちに殺すぜって執念。私はあんたが怖いよ! 




「どうやらゲームの世界と思い込んでいて、物語の強制力があるはずと怯えていたようですね。そのため、父親が殺す決断をしなくても事故死を装うと企んでいたようです」

「こわっ!!」






 本当に怖いよ!! 絶対に殺そうとしすぎだから。あと物語の強制力って、五歳にもなって現実との区別がついてなかったの。

 そしてお父様とお母様よ、そんな子供のたわごとを信じてしまったのか。






「それで、私は、どうなりますか?」

「ああ、それがその……今回は神の不注意で死んだわけでもないだろう? なのですぐに転生が出来ないんだ。自我を保ったままで辛いだろうが、この天界で自由に過ごしてほしい。本当に申し訳なかった!!」

「いえ、頭は下げないでください。大丈夫ですから」






 下手に大きくなって、人生を楽しんでしまってから殺されるよりは良かったのかもしれない。と前向きに考えよう。というか、私不運だよね。神様に殺されたかと思ったら、転生して殺されて。

 あー、まぁ、考えても仕方がない。

 そう考えた私は天界で過ごすことになった。










 天界で自由に過ごしていいと言われていたものの、とくに何もやらないというのは申し訳ない気分になった。それに退屈だし。

 というわけで天使のお兄さんのお手伝いをすることにした。

 短い付き合いだが、天使のお兄さんはいい人だ。親身になってくれていたし、天使なお兄さんと一緒にいるのは楽しそうだった。










 天使なお兄さんの補佐として過ごす中で、私を殺すように示唆した転生者の末路も知った。

 私を殺したこともあって、少しずつズレが出てきていた。加えて、彼女の知る世界は乙女ゲームが終わるまでだった。








 そのため、徐々に乖離していく彼女の予知と現実に、周りがいぶかしみだし、結果として自信満々にした予知が外れ大損害になったり、乙女ゲームが終わった時間軸で予知が一切できずに、損害を出し続けた結果、修道院と言う名の牢獄のような場所で一生を終えることになったようだった。








 『予知の姫』として有名になったからこそ、それが出来なくなってしまえば落ちるのは早かったのだろう。

 両親は「もしかしたら殺してしまった妹は災厄ではなかったのではないのか」と病んでいるらしい。知るかって感じね。




 あと色々やらかしたせいで、次の転生は普通に出来ないようだ。うわぁ、って感じ。







 まぁ、私が転生して生きるはずの世界は割と大変らしい。他の世界も見ながらのんびり天界で過ごしていた。









 ――それから、転生する時期になって「――転生せずにこのまま天使としてここにいないか?」と誘われることになるのは別の話である。

 そんな未来がくることなど知らずに私は天使なお兄さんの手伝いをしているのだった。






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乙女ゲームのヒロインとして転生するはずでしたが、即殺害されて天界で過ごすことになりました。 池中 織奈 @orinaikenaka

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