第4話「ぼっちのオアシス」

「あぁ、だりぃ」


 席を立ち、くぐっと伸びをする。

 富岡とみおか第一高校特進コースのカリキュラムは、午前に四コマ、午後に二コマの一日六コマ。一コマ五十分で、各コマの後に十分間の休憩タイムあり。高校生の時間割としては標準的なものだと思うが、昼飯前に四コマ立て続けはかなりしんどい。

 今日なんて、一・二限の体育でへとへとになった後で三限に世界史なんて無理ゲーもいいとこだ。まあ、腹一杯になった後で四コマとかやられてもそれはそれで寝るだろうから、結局変わらないが。


 昼休みはたっぷり一時間。四十分ぐらいしかない学校も多いようなので、ずいぶんと太っ腹だ。

 ただ、ぼっちにとって一時間のフリータイムは長すぎる。飯を食い終えたらすることがないので、惨めたらしく机に顔を埋めているか、図書室に移動して頬杖つきながら携帯ポチポチいじって時間をつぶすぐらいしかない。図書室という環境を活かすべく本を読もうにも、午前の授業で疲れていて気力が湧かない。正直、昼休憩なんて三十分あれば充分だから授業早く終わってくれや。


 とはいえ、帰宅してもやはり居心地はよくない。家では、雑種犬とペットフードと某穀潰ごくつぶしが、昼夜を問わず悪臭ナンバーワン決定戦を繰り広げているからだ。

 自室にこもればシャットアウトできるとはいえ、トイレなどでどうしても部屋から出ざるを得ない場面は当然あり、そのたびに俺のヒットポイントが僅かに削られることになる。ディベート部のない日は、だから下校時刻まで図書室にいることが多い。


 図書室は良い。教室のように、馴れ合うことが青春だと履き違えている面白みに乏しい連中――リョウエイや中島、あるいはディベート部のメンバーはこの限りではない――のやかましく多様な雑音を耳にすることなく、かつ悪臭が飛んでくることもなく、安心して身体を休められる。

 授業がすべて済んだ後なら気力も多少戻っているので、適当に読書して過ごすのも悪くない。受験で点数を取るための参考書しょもつは嫌いだが、生活を豊かにするための小説しょもつは好きだ。先々月、檜山先生に薦められた『佐賀のがばいばあちゃん』は特に俺の琴線にふれ、すでに通しで五回読んだ。ばあちゃんの話ってだけでそそられるんだよな。


 走り幅跳びや百メートル走をがっつりやったので、普段に増して俺の胃袋は空虚を嘆いている。今日は学食の大盛りカレーに加えて、売店でニ、三個パンを買わないことには満足してくれないだろう。


 ということでさっさとGo To Eatしようとした矢先、俺はあるものを感知した。

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