第10話「初めての発信」
「もしもし?」
コール四つののちに、声がした。
「あっ、えっと……俺、俺。悪いな、突然」
「オレオレ詐欺なら切るぞ」
「あのさぁ俺、仕事でミスって会社にめっちゃ損害与えちゃってさ、今すぐ金が必要だから二百万振り込んでくれないか…? って、んなわけあるか! 鷹岡だよ! 高一男子の携帯にオレオレ詐欺の電話するか。年寄り狙いで家電にかけるだろ普通」
高校で知り合った人に電話をするのは初めてで、思いのほか動揺してしまった。そもそも俺は友達が少なく、高校に入って連絡先を交換したのは中島とリョウエイ、あとはディベート部の数名だけ。
中島とリョウエイは今やチームメイト兼友達だが、これまでわざわざ電話をしようと思ったことはない。電話はメールと比べて、プライベートに対する介入力が強い気がする。
「ははは、冗談だよ。どうしたアキ? 珍しいね」
中島が、受話器の向こうで快活に笑う。
「ちょっと、話がしたいなと思ってね。勉強中だった?」
「いや、大丈夫。ちょうど一段落したとこだから」
「さすが、偉いなぁ。期末テスト近いし、俺もちょっとはしないとヤバいわ」
今でこそチームの大黒柱だが、医学部志望の中島は最初、日々の勉強とディベート部の活動で手一杯だからと『声と言葉のボクシング』団体戦の出場に否定的だった。
図書室まで説得に行き、勝手なことを言わないでくれと突っぱねる彼の前で土下座をしてどうにかチームに引き入れたのはたかだか一ヶ月前のこと。あれからずいぶんと明るくなったなあと思う。いや、もともとの性格をそれまで表に出していなかっただけかもしれないが。
「それで、話って?
“厨時代”は、一昨日決まったばかりの俺たちのチーム名だ。
俺と中島とリョウエイ、そしてディベート部顧問の
厨二病の“厨”と、少女時代――公にはしていないが、先生は彼女たちの大ファンだ——の“時代”をあわせたネーミング。シンプルで覚えやすいそのチーム名は、なんだか妙にしっくりくる。
「えっと……いや、ちょっとさ、家でいろいろあって」
苦い笑いを浮かべながら、途切れ途切れに言った。
「そういえばアキん
「あ、うん。まあね」
家族構成とか中島に話したことあったっけなと、俺はわずかに疑問を覚える。
ふと空を見上げると、米粒みたいな流れ星が俺の真上をさらりと通り過ぎた。
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