第2話「らしくないやつら」
「ディベート部やポエム合戦に精を出すのも結構ですが、もう少し英語の勉強も真面目にしてもらいたいものですね。一桁なんて、学年であなただけですよ」
「は?」
順位をバラされたことにではなくその前のフレーズに対して、俺は再度カチンときた。
シワだらけの答案用紙をいっそうくしゃくしゃに丸め、座ったまま教卓に向けて放る。平井にぶつけてやろうと思ったが、最前列の右端からでは惜しくも届かず、およそ十センチほど手前で落下した。
「ポエム合戦なんて競技ねえし。なんすかそれ」
すぐさま弾丸ラップで罵倒してやりたい気持ちをこらえ、冷静に返答する。
「それは失礼。正式名称は何だったかしら?」
平井の問いにきゅっと口をつぐみ、ブレザーのポケットからガラパゴス携帯を取り出してパカッと開き、Twitterにアクセスする。
平井の軽いため息が耳に入るも、俺は携帯を操作する手を止めず、フォロワー数ゼロの鍵アカウントで「平井うざすぎワロス」とツイートした。
「あっ、えっと……『声と言葉のボクシング』です。ハイ」
追加で「行き遅れのババアが偉そうに」とツイートしようとしたところで、真ん中どころに座るリョウエイの声がして手を止めた。
「あぁ……そうでしたね。前に
ほんの少しだけ頬を緩め、平井がリョウエイに礼を言う。
「とにかく、今の成績ではこの先ますます苦労しますよ。高校生活もあと二年と四ヶ月半。ぼんやりしているとあっという間に大学受験です」
紋切り型の小言を聞き流しながら、さっき打ち込んだツイートを送信する。
「鷹岡くんだけでなく、四十点未満だった方は全員、今週中に直しを行って提出してください。ターゲットとForestを見れば解答できると思いますが、もし分からなければ質問に来ても構いませんよ」
平井の指示を受け、教室からは数種類のブーイングが発生した。なんだよ、ほかにもできてない奴結構いるじゃん。
「鷹岡くん」
TwitterからYahoo!ニュースにシフトしていた俺に、平井が声をかける。
「何かに打ち込み、情熱を注ぐのは、すばらしいことだと思います」
予想外のコメントに、俺は思わず顔を上げた。
「私が高校一年生だったときは、特別打ち込めるものもなく、漫然と過ごしていました。部活動はしていなかったし友達も少なかったので、授業が終わると、さっさと家に帰るか塾に行くか。勉強はそれなりにしていましたが、もったいない過ごし方だったかもしれないなと、今では思います」
俺が投げたくしゃくしゃの答案用紙を拾い、広げて伸ばしながら、平井は自分語りをする。陰キャ臭にみちた平井の高校時代は容易に思い描ける。
「情熱を費やせるものを持ち、共有できる仲間のいるあなたが羨ましいです」
そう言って、平井はにこりと笑った。
柄にもないこと言いやがって……気持ち悪い。
「あっ、ありがとうございます」
柄にもなく素直に礼を述べたあと、俺は先の二つのツイートを削除し、
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