第6話

こんな怠惰な状態の俺にも関わらず、幸運にも付き合ってる女性がいる。そこだけはマジでラッキー。今日はウチに彼女が来ている。彼女には、たこ焼きを買って行った。手ぶら丸出しも何だし、美しい薔薇ってガラでもないし、それに、彼女も外カリ、中フワ、そしてベリークリイミーなたこ焼きが大好きだった。待ってろよ。いま、会いに、そしてタコ焼きを届けに行きます。彼女は笑顔で俺を迎えてくれた。初めて付き合った女性ってわけでもないが、好きな女の笑顔というのは反則だ。モナリザも霞んで見える。遠い昔から男は女の笑顔に―弱い。仕事で疲れて帰って来る男。その男の帰りを待ち、笑顔で迎えてくれる女。人類がマンモスを追っていた太古の昔からそこんとこは何も変わっていない。男はそういう光景にめっぽう弱いのだ。彼女と過ごすことは、俺の大切な日常の一部になった。

「今日はパスタと白身魚。イタリアンだけど、もうちょっとで出来るから、ソファでゆったりTVでも見ててよ。ね、俊君」

「何、パスタ?それってトマト系?」

「残念でした。今日はクリームパスタ」

「クリーム?でも全然OK。俺パスタ何でも好きだから。ラッキー。それ早く食べたい。めっさ腹減ってるから」

「何、そのめっさって、それ軽くウケるし。でもあと五分待ってね」

「五分ね。はーい恵理ちゃーん」

傍から見たらキショいが、ちょっとだけふざけて言ってみた。彼女は俺の顔を見て軽く笑った。その仕草がまたかわいい。人を好きになると人を見る目が変る。他人が以前より愛おしくなる。どんな奴も愛おしくなって来るから不思議だ。心の底から悪い奴以外ってのが条件だが。大概の事は許せるようになる。恋愛は人生を心の闇から救ってくれる良薬みたいだ。彼女は大学生だった。普通に合コンで知り合った。高校の後輩で東京で一人暮らしてる奴がセッティングしてくれた女子大生との奇跡の合コン。そこに、モナリザに勝る笑顔を持つ天使に出会った。その日は実は横目でチラチラ見てただけで、その後、奇跡的にお互いの後輩同士が付き合いだし、お互いそいつに誘われついて行ったのが、距離を近付ける一つのキッカケとなった。Wデートっぽいことを重ねるうちに、色々話をして、趣味だったり、フィーリングだったりが合うのかなって思ったりして、それから、偶然が必然に変わり、そして、また新たな奇跡が起こった。“デートしよう”とストレートに言うのもいいけど、“今度、遊ぼうよ”とさり気無く言うのもいいかなとか思って

「俺、美味しい店知ってるよ」

「そうなんだ。じゃあ、今度、皆で行こっか?」

「それでもいいけどさ、良かったら二人で行かない?今度、どっか二人で普通に遊ぼうよ」

と言って俺は彼女の方を見た。これって?と思ってくれた彼女と俺の運命は転がり出し、その後は二人だけでも会うようになっていった。そして、俺が「俺ら二人、付き合ってみない?」と照れながら言って、彼女が「いいよ」と返事をくれた時から、今に至る。男女の関係には割りと早くなったが、彼女の部屋に呼ばれるようになったのはごく最近。何でか、よう分からないけど、彼女は中々、俺を部屋に入れようとしなかった。で入って見ると結構いい部屋に住んでるから超ビックリした。最寄駅からも近く、オートロックで一体何へーべーあるんだってぐらい。ちょい広めの2LDK。普通の女子大生にしては、とんでもない所に住んでいる。ここの相場も何となく知ってるから尚更。「家賃どうしてるの?」と聞いてみたら、「仕送り」とさらりと言ってのけた。バイトしてるのは知ってるけど、親は間違いなくリッチだ。こんなフリーターのどうしようもないダメ男の俺なんかと付き合ってていいのだろうかと、何回も思ってしまう。て言うか今も思ってる。

「ねえ、これ美味しいでしょ、パスタ」

「おう、最高に美味い。ありがとう恵理」

「やったーどんどん食べてね」

「いただきまーす。おおっこれマジでうまっ」

相性としては、たぶん最高だろう。A型の俺とO型の彼女。血液型診断的には補完関係にあるらしい。几帳面と大らかさ。対の関係。らしい。あくまでも統計学。趣味も合う。お互い映画好き。俺はホラー、サスペンスものは見ないけど。それ以外はグーだ。あとスポーツはお互い見るのもやるのも好き。二人共、以外と体育会系出身。俺はサッカー。彼女はミニバスとテニス。二人でテニスをやったこともある。その時はいい感じでラリーが出来て楽しかった。俺、何気に球技なら、何でもそこそこのレベルで出来る人だから。俺達は食べ物の好き嫌いも似ていた。二人共、生ものが苦手(生肉、生魚)でレバーとかも苦手。そしてこれも何気に重要。体の相性。それもいい。お互いにSとM、両方有でどっちにも偏っていない。いわゆる一つの。ノーマルなHを好む二人だった。

「ねえ、久々に訊くけど、ちゃんとした仕事探してるの?」

「えっまあ、ぼちぼち」

「頑張って探してよ。私、彼がフリーターって言うのは結構やだなあ。友達にも心配されるし」

当然だな。それは。うんうん。分かってるって恵理ちゃん。

「そのうち、ちゃんと決めるから、もうちょっと待ってよ。頼む」

「景気悪いのも分かってるけど、頑張ってよね」

問題はこれだった。俺と彼女の格差社会。彼女はたぶん。結構いいとこの娘さん。で、俺は先の見えない自由人を気取るお馬鹿なフリーター。これが、俺たち二人の最強にして最悪の問題だった。

 旧約聖書「創世記」には、神が1~6日で全てを創り、7日目は休息に充てたと書いてある。神でさえ、休息したのだ。だからそれが西洋の世界で一週間になり、日曜日を休息の日としたのだと言う。その日曜日。最近流行ってると言う映画を彼女とデートで観に行く。無類の映画好きの友達から、この前飲んだ時、薦められたので、彼女を誘ったら、私もそれ見たかったのと言ってくれたので、いざ二人で池袋へ。外資系レコードショップで、CDを試聴しまくった後

「今、何時?」

「そろそろ、行こうぜ」

というやり取りをして、ちょうどいい時間。上映10分前に映画館に入った。彼女は席に座ると手鏡を取り出し、ちょっと髪型チェック。この仕草もまたかわいい。女が鏡を見るのは、自分の美しさを確かめる為。男が鏡を見る時は、自分の立ち位置を確認する為。ナル男は別にして。

「これ、何かピンと来なかったな」

「正直、私もちょっと」

鑑賞した映画は、通好みと言うか、マニア受けする感じの映画で、次々と犯人だと思う奴が死んでいく。テンポとしてはいい、展開もドキドキが続くから飽きない。が登場する人間が多すぎるように思うし、テーマがいまいち掴めなかった。そう言う映画だと言われればそれまでだけど。俺の好みではなかった。彼女も。

「これ、大衆向けではないよね」

と言う始末。俺もメジャー志向が強い性格で、余りマニアックなのは好きではない。その点も彼女と同じだった。全体的に生活全般にライトユーザー。それも含めてやっぱ俺達って相性いいかも。

 芸術の口直し。ではないが、もう一回CDショップ(今度は違う店)でまた試聴しまくり。ここでは久々に気に入った曲があったので、衝動買いした。ポイントカード忘れたので、それを告げ、レシートにカード忘れと書いてもらい、次回、ポイント加算してもらう事にした。小腹が空いたし、少し疲れたので、俺たちはカフェに寄った。俺はトゥデイズカフェとクロワッサンのメイプルシロップ付。彼女はカプチーノとレアチーズケーキのセット。一息入れながら、たわいもない会話。そんなのが、普通に楽しかったりする。店の中は最近のカフェの定番。ボサノヴァが。外は曇って来たが、ここだけは南国のようだった。仕事はオフ。そして俺は彼女と二人でカフェでまったり。とても贅沢な空間と時間の使い方だった。

「じゃあ、そろそろ出ようか」

「ここいい店だね。カプチーノ美味しかった。また来ようよ」

彼女はそう言って笑顔。髪を掻き揚げる仕草が彼女を更に素敵な女性にした。外に出ると相いも変わらず空は、微笑みを見せていない。駅前まで差し掛かると“ちょっといいですか?”と、20才前後の男に声を掛けられた。

「今、街頭でインタビューやってるんですけど。ご協力頂けませんでしょうか?」

「はあ、何のインタビューですか?」

「あのう政治って興味ありますか?」

「政治ですか、まあ多少は」

衆人環視の目の前で彼女に醜態を晒すわけにはいかない。

「総理についての質問なんですけど」

「えっ」

彼女が驚く。

「彼女さんの方はどうですか?」

「興味ですか、あんまり」

「それってすぐ終わりますよね」

とは俺。

「はい、五分ぐらいで」

なら、受けてやっかな。

「じゃあ、いいですよ」

「では早速行きます。YESかNOでお答え下さい。まず最近の司馬総理を支持しますか?」

「NOで」

「中国や韓国、アジア諸国とアメリカどちらを外交の中心と考えていますか?」

「アメリカで」

「消費税を5%から引き上げていいと思いますか?」

「NOで」

この手の質問を10問くらいYESORNOで答えて行く。

「お時間がよろしければ、そちらの彼女の方にも答えて欲しいのですが」

「時間あるし、やってあげれば」

「うーんしょうがないなあ、じゃあ」

俺と同じ質問が飛ぶ。でも

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

臨時ニュースを申し上げます。 @shinkakuno1013

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ