第9話 殺し屋君と同僚
澪が外に出てみたいと言ってから数日。
俺は澪のために何ができるかを考え、まずは服を用意してやることから始めた。
より、外に出たいと気持ちが増すようなオシャレな服を。
しかし、そこで問題が発生する。
――――ファッションセンス皆無。
そう。
何を隠そう、俺にはファッションなど分からない。
幼い頃から山育ち。十になったらすでに
ファッションなど知る余裕すらない。
それに加え、俺は基本的にスーツしか着ない。
故に、俺の取れる選択肢は一つ。
それは――――同僚を頼ることだ!
だが、誰を頼るかによって成否が分かれる。
人選を間違えてはならないのだ。
確実にこいつなら心配ないという同僚……思いつかない。
仕方ないため、俺は本部にいた数人の同僚に声をかけた。
「お前たちに声をかけたのは他でもない。相談したいことがあるからだ」
「ふーん。『黒死』の君が相談なんて珍しいね。一体何があったと言うんだい?」
俺のことを「黒死」と呼んだ男。見た目は少年だが、歳は俺より十は上だ。
その見た目とは裏腹にかなりの腹黒。組織内では「
組織では基本的にコードネームで呼び合うことが多い。同じミッションを行う時、名前で呼び合っては特定される恐れがあるからだ。
出来る限り日常に溶け込むためにも、名前は伏せる必要があるのだ。
ただし、例外もいるのだが。
「某の力が必要と? ふふふ……貴殿も中々見る目があるではないか。良かろう! 某に任せるが良い」
言葉遣いが独特な小太りで眼鏡の男。情報操作に長け、俺たちの仕事が世間に広まらないよう隠蔽している。コードネームは「
「可愛い可愛いさち君のためよ。何でも言ってちょうだい」
桃色の髪で露出度の高い服を纏った女。こいつだけは俺のことを名前で呼ぶ。
いくら言っても聞かないので、もう諦めている。コードネームは「ジュリエット」。
これは自分で決めたらしい。自由な女だ
今回本部にいたのはこの三人………………のはずだった。
「あらあらぁん。そういうことなら遠慮はいらないわぁ。私に、ま・か・せ・な・さ・い♡」
「いや、お前は呼んでいないのだが」
どこから嗅ぎ付けてきたのか、いつの間にか「
気配もなにも感じず、一体どこから現れたのかすら分からない。
このオカマの行動だけは予測できない。苦手だ………。
「そんなつれないこといわないでぇ! 同じ組織にいるな・か・ま。なんだからぁ」
「…………まあ、いい。早速本題に入ろう。実は……――」
俺はこれまでの経緯を話した。
ジュリエットには以前も話したことなのだが、他の三人は今の俺の現状をあまり知らない。
話が進むたびに、スネークは楽しそうな笑みを浮かべはじめ、ハッカーには仇でも見るかのように睨まれ、ピーチは……あまり見たくないな。
「ふーん。なるほどねぇ。随分と楽しそうじゃないか。羨ましいよ。うんうん。本当に、羨ましいなぁ」
「その含みのある笑みはやめてくれ。スネークは何を考えているのか分からず対応に困る」
「そういう素直なところは嫌いじゃないよ」
スネークもある意味苦手な類の人間だ。
スネークの言葉を額面通りに受け取ってはいけないと幹部にも言われている。
「まったく……羨ましい限りであるな! 実に許しがたい大罪を犯しておるぞ!」
「大罪? 俺は何も」
「いいや! 貴殿は全世界の男を敵に回している! なぜなら…………美人な年上お姉さんと同棲しているだなんて! 実に、実に許しがたい大罪である! そのような甘々でふわふわなお姉さんがいるなど、現実も捨てたものではないのであるなぁ! 某、貴殿をここまで憎いと思ったことはない!」
「何を言っているのか分からない。冤罪を擦り付けるのはやめてくれ」
ハッカーは時々言葉の意味が理解できない。
それに同棲などしていない上、澪が甘々でふわふわ? 本当に何を言っているんだこいつは。
「いいわ、いいわぁ! 楽しそうねぇ……私も混ぜてほしいわぁ」
「遠慮する」
ピーチは……できるだけ関わりたくはないな。
たまに視線が俺の尻に向かっている時がある。
その時は特に寒気を感じるのだ。
そして本能が告げる。こいつは危険だと。
結局俺は、四人から少しアドバイスをもらい、ジュリエットと二人で服を買いに行くことにした。
ジュリエットは組織の中で一番歳も近く、頼りになる同僚である。
ただし――。
「お礼にぃ……今夜、お姉さんと、どう?」
「俺に対してのハニートラップは遠慮してくれ」
「ああん。いけずぅ」
会うたびにこれが無ければいいのだが。
とりあえず目的は達した。
後は、澪が喜んでくれるかどうか。
少し不安要素は残っているが、俺は澪の喜ぶ顔を思い浮かべ、家へと急いで帰ったのだった。
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