カクヨム監修を通過しない作品がどうなるか

ちびまるフォイ

カクヨム監修の適材適所

いまや小説投稿サイトは大人気となった反面、出来不出来の差が大きいのが問題になっていた。


中には単に自分の趣味や性癖を撒き散らすだけの乱文だったり、

小説とは名ばかりでただの出会い目的の場として使われることもあった。


【カクヨム監修】が入るようになったのも当然の流れといえばそうだった。



「なあ、これ読んでくれよ」


学校で友達にプリントアウトされた紙束を突きつけられた。


「なにこれ……? 冬休みの宿題?」


「ちがうよ。僕の書いた新作小説。今度カクヨム大賞に応募するから意見がほしいんだ」


「いいけど……。なんで俺? 普通にサイトで投稿すればいいじゃん」


「投稿しようとしたんだけどさ、カクヨム監修からすっごい指摘されたんだ。

 あれを直せこれをこうしろって」


「……そんなにやばい内容なの?」


「そんなつもりはないよ。きっとカクヨム監修におとなしく従う作家だけを手元に置きたいのさ。

 だから適当な監修指示を出して従うかどうか試してるにちがいない」


「そうかなぁ……」


「そんなことより、いいからこれは読んでおいてくれよ。感想を反映したいんだ」


友達に力作の小説を渡されたものの、冬休みの宿題以上に読む気がしなかった。

自分で書くのは好きなのに人のものを読むのは好きでもなかった。


それに今は限られた時間を大切に使っていたい。

なにを隠そう自分もカクヨム大賞には応募する気でいた。


自分の最高傑作をこっそりしたためていた。


「よし、これで完成だ!!」


ついに完成した『深海団地15-9』は自分でも満足のできになった。

さっそく投稿ボタンを押すと、投稿日のところが「監修中...」と切り替わった。


翌朝、マイページを見てみると『監修完了』の文字に切り替わっていた。


自分だけが読めるメッセージには大量の修正指示が入っていた。



>設定がとっぴすぎて読者がついていけなくなります。

 題材を深海ではなく異世界にしてください。


>主人公の年齢は読者層の近い中高生に設定してください。

 また、男性比率が高すぎます。半数以上を女性にしてください。


>敵の造形描写がおどろおどろしすぎます。

 映像表現に耐えられるようにポップにしてください




「ま、まじか……」


これまで自分が見たことないほどの指摘の数が大量に羅列されていた。


自分ではあんなに面白いと思っていたのにカクヨム監修が入るや、

もはや作品の味をガン無視するような指摘にがくぜんとした。


「でも……コレに従わないと投稿できないしなぁ……」


納得できないところもあったが、監修には逆らえない。

ひとつひとつ指摘箇所を指示通りに直していった。


ほぼ別の作品をイチから作り直すレベルの時間がかかり、

すでにカクヨム大賞の締め切りは直前まで迫っていた。


「終わった……! なんとか間に合った……あとはこの投稿ボタンを押すだけだ!」


監修の言うとおりに直したので、もうカクヨム側から修正指示はないだろう。

それがわかっているのに投稿のボタンで手が止まる。


「このまま投稿していいのか……」


監修指示に従いながらも悩んでいる部分だった。

出来上がったほぼ別の作品は自分でも読んでいて何が面白いのかわからなかった。


どこかで見たような、そしてすぐに忘れるような作品に感じてならない。

これでカクヨム大賞を取れるのだろうか。


「俺は誰かに矯正されたものじゃなく、自分のありのままで戦いたい!!」


いったん監修済みバージョンで投稿ボタンを押した。

一瞬だけ「監修中...」になったがすぐに「監修OK」の表示に切り替わった。


それを確認したあとで小説の内容をごっそりと元のノーカットオリジナル版に切り替えて更新した。



数日後、カクヨム大賞の結果が発表された。


受賞作品は本文と評価者のコメントが掲載される。

中には深海と団地について書かれたものばかりだった。


「おいおい! まさか、大賞取っちゃったのか!?」


掲載された本文を見るに自分の作品に間違いなかった。

あれだけカクヨム監修で直せと指示されていた部分が評価者には"味"として受け入れられていた。

そのことがなによりも嬉しかった。

自分の個性を認めてもらえたような気がする。


「やっぱり俺は正しかったんだ! カクヨム監修なんかより、俺がこの作品のことを一番わかってるんだ!!」


有頂天祭りだった自分の頭が冷え始めると、大賞受賞者の名前が目に入った。

そこには自分ではなく、別の人のハンドルネームになっていた。


自分の作品なのに、別の人が作者としてすげ替わっている。


「ふざけるな……これは俺の作品だ! 俺にしか作れない作品だ!!」


すぐに偽作者に連絡をした。

しかし相手は悪びれるどころか驚いていた。


『この作品が君のだって? そんなバカな!』


「しらばっくれるんじゃねぇよ! どう見ても俺のものだ!」


『証拠はあるのか!? 君の作品だっていう証拠は!』


「当たり前だろ! それはーー」


手元のメモ帳には応募用に書いていた未監修の作品だけがあった。

大賞作品との一致を見れば明らかにはなるが、こっちは未監修の作品。

2つを並べたときにどちらが正しいものかは明らかだ。


『なんだ、証拠は出せないんじゃないか。大賞をやっかんで文句言わないでくれ』


「ちがっ……証拠はあるんだ! でもこれは監修を通っていなくて……」


『あのな、こっちは監修をきちんと通して、指示通りに従って晴れて大賞になった。

 正規の方法だ。なのに君は未監修のものを持ち出して一致してるから偽物だって?

 僕にはちゃんと監修に従って作った証拠があるんだぞ』


「……待って。あんたはちゃんと監修の指示に従ったんだよな?」


『なんだ? 話を逸らす気か?』


「いや、俺の作品は監修で別の作品に作り変えるように指示があったんだ」


『それは僕も同じだ。深海の底で暮らす団地について書くなんて、

 最初は監修の指示がバグったのかと思ったよ。もはや修正じゃなくて別の作品だ』


あっけにとられていたとき、窓から入った風が積んでいた紙束を舞い上がらせた。


友達から受け取ったままになっていた小説が床に散らばる。

拾おうとかがんだとき、その内容に既視感を覚えた。


「これ、俺が監修の指示通りに書いたものとそっくりじゃないか……」


文面のタッチは異なるが、展開やキャラも自分が泣く泣く書き直したものとほぼ同じ。


でも重い展開を書きたがる友達よりも、自分のほうが面白く仕上がっている。

同じアイデアと設定でここまで変わるのか。


「なんで別の作品をわざわざ監修指示で俺に書かせようとしたんだ……?」



そのときはまだよくわかっていなかった。



カクヨム監修が当たり前になったころ、ベストセラーが多く出版されるようになった。

カクヨムから書籍化が決まった作者は口を揃えて同じことを残念そうに言うらしい。


『書きたいのはこんなんじゃない。でも求められるものを書くしかない』

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