こどもののみもの ②

 僕の反応が可笑しかったのか、にまーっと笑顔を浮かべる男の子。

この子の名前は、さとうゆうき君。お父さんが大好きで、お父さんのために何かしてあげたいという思いが強くて、母親を困らせがち。もしかして今日も…………

「ゆうき君おはよう。今日は一人かな?」

「うん!」

 子供特有の無邪気な笑顔を向けられる。アーカワイイナー、オモチカエリシタイナ…って場合じゃない! 正気に戻ってゆうき君に問いかける。

「お母さんにここに来ることは言ってきたの?」

 この子には前科がある。「お母さん心配させ罪」という大きな罪があるのだ。

「イッタヨ~」

 顔をそらしながら、片言を言う。

 うん、これは言ってないね。

 ゆうき君を置いて、この前教えてもらった番号に電話をかける。

かけ始めるとすぐに電話が繋がった。

「もしもし、酒の大沢です」

「こんにちは。お世話になっています。もしかして…………」

「はい……ゆうき君が…………」

「すみません、すぐ向かいます!」

 急がなくても大丈夫ですよ。と言おうとしたがその前に電話を切られてしまった。

向こう側でドタドタと音も聞こえてきたし、相当焦っているに違いない。

もうどうすることも出来ないから、僕はゆうき君をしっかり見ていることにしよう。

と電話を置いて、ゆうき君が先ほどまでいた方へ視線を送るが、そこに姿はない。

焦って店中を探しまわる。

「ねぇねぇ、お父さんのジュースいっぱいあるね! すごい! すごい!」

 店の奥にあるワインコーナーにその姿はあった。棚に並べてあるワイン瓶の数々をキラキラした目で眺めている。一瞬目を離した隙に怪我でもしたらと思うと肝が冷えたが、ゆうき君は特に何もなくただ瓶を眺めているだけであった。母親の教育がしっかりしているのだろう。商品に手を触れるようなことはしていない。そのおかげで何も起きずに済んだ。

胸をなでおろし、ゆうき君のそばに行く。何かあったら守ってあげられるように。

「今日は、何か買いたいものがあるの?」

 この子が来るときは決まって父のためにお酒(じゃないのもあるが…)を買う。今回もおそらくそうであろう。だが、予想に反してゆうき君は首を横にブルブルと何度も振る。

「ならなんで?」

「さようなら、言いに来た!」

「えっ?」

「だから、さようならだよ!」

「う、うん?」

「さようなら」

 僕が口をパクパクさせているのを、気にせず学校の下校の時のようにペコリと頭を下げて

「さようなら」と言ってくる。

 その訳の分からない光景に、僕が出来たのはそこにあった可愛らしい頭を撫でることだけであった。

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