ランブルスコ セッコ 完

 話し終えた川出は明日、朝早いからと言って先に店を出ていった。

「私のご飯代」と言って、僕たちの分も含めたお金を置いていった。そんなところからも彼女が大人なのだと分かる。経験しているからこそ言える大人の言葉。

子どもの僕の考えなんかとは違って、大人の川出の言葉は正しいのだと思う。

だけど…………だけど…………

 僕の様子が変だったのだろう。

「まぁ、川出さんなりの応援だと思うから、お前も気を落とすなよな」

と成美が励ましの言葉をくれる。

「大丈夫だよ。貴重な話が聞けたよ。今日はこんな場を作ってくれて本当にありがとうね」

気を遣わせないように明るく装って感謝を伝えると

「よせやい」

 照れ臭そうに鼻を書く成美に、もう一度「ありがとう」と伝えると誤魔化すようにコップを持ってどこかに行ってしまった。

 

 暫くして調子を取り戻した成美が

「そういえば、帰りどうするんだ?」と聞いてきた。

「あっ!」

 すっかり忘れていた。壁に掛けられた時計を確認するととっくに時間を過ぎているではないか。やばい…殺される…

「ごめん、成美携帯貸して!」

 差し出された携帯を奪うように取って、急いで電話をする。

 何故僕がこんなに焦っているかと言うと…

天音が帰りに迎えに来てくれることになっているからだ。

約束だと天音がここに着いたら、顔を出してくれることになっていたはずなのだが…

未だに顔を出していない。これは、何かあったに違いない。

「もしもし…天音さんですか?」

 恐る恐る電話すると—————————

「お前、何時間待たせる気だ?」

 と怒りを隠す気のない声で言われる。

「すぐ行きますから~」

 泣きそうになりながら、成美と外に出る。


「ホントにすみません、すみません、すみません」

 店の前にいた天音にいたすら頭を下げる。

「はぁ……」

「すみません、すみません」

「あーもう分かったよ」

「あれっ? そういえばなんで中に入ってこなかったんです?」

 約束通りなら中まで迎えに来てくれることになっていたはずだが…

「入ろうとはしたんだぞ。それで、受付表を見せて貰ったけどその中に『鵜飼』も『成美』もないじゃないか。それで、本当にここにいるか分からなかったから外にいることにしたんだよ」

「あっ…」

 成美が受付表に書いた名前は「鬼龍院」

 つまりは————————

「な~る~みくん何か言い分はあるかな?」

 ほんとに死ぬかと思ったのだ。今日は天音の機嫌が悪くない日だったからいいものを…

もし悪い日だったらと思うと問いたださずにはいられない。

「さぁな、それじゃあ電車がそろそろ来るから俺は帰るな。それじゃあ!」 

 逃げる彼を捕まえようとしたが、野球部で大活躍していただけあって動きにキレがあり、逃走を許してしまう。

「逃げるな~!」

と遠くへ行く彼に叫ぶことしかできなかった。


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