生酛ひやおろし
「酒の大沢」
が面している道に小学生が集団下校している姿がある。
暑さの後退はまだまだで、小学生のほとんどは半袖姿だ。
それでも道端に茜が咲いていたり、赤蜻蛉が飛んでいたりと秋らしくもなってきた。
秋刀魚や茄子が美味しくなる時期でもある。この時期になると母が揚げ茄子を良く作っていたからその味が少し懐かしくなる。
とそんな風にのんびりと呆けている場合ではないのだ。
やらないといけないことが山積みだ。
まずは、秋ビールの陳列縮小。
季節ものはいつまでも売れるわけではないので、段々と減らしていかないといけない。
今はまだ高く積み上げているがこれ以上、追加はしないため段々とものがなくなり、見た目が寂しくなっていく。それを防ぐためにもあらかじめ縮小しておいて、最後まで貧相に見えないようにしている。
ちなみにこの秋ビールを縮小することでやらないといけないことが発生する。
それは、僕の棚の再開だ。
秋ビールに潰される形で、一時期なくなっていた僕が管理する棚。
それが今回の縮小により復活するのだ。
お盆は忙しすぎて管理が雑になっていたのだが、いい加減やらないといけない。
とは言ってもだが、何を置くのが良いのだろうか…
今回はいつもの数倍力を入れないといけない理由がある。
だからこそ、適当になんかできない。
考えつつも手を動かし、縮小を終える。
さて、次は棚に取り掛かるわけだが何を入れるべきか。
一応、何個か案は出てきた。
①秋らしい酒を置く。
②秋ビールが横にあるので、一緒に楽しめそうなクラフトビールを置く。
③チューハイをまた置く。
この中だと②が一番良さそうな気がする。
時折、お客さんから『銀河高原ビール』だとか『インドの青鬼』の注文を受ける。
案外クラフトビールは人気なようだ。
うちの店はあまり力を入れていなかったから、仕入れてみるのも面白いかもしれない。
その後も暫く考えて『クラフトビール』でほぼ決定になったころ、店に天音が戻ってきた。
「お疲れ様です」
いつもは手ぶらで帰ってくるのに、今日は手に一升瓶を抱えている。
「おお、店は問題ないか?」
「特に何も…ところで手に持っているお酒は何です?」
「酒屋の秋と言えば、これなんだよ!」
ドカッと机に置かれた一升瓶には『生酛ひやおろし』と書かれている。
「ひやおろし?」
「酒屋の秋と言えば『ひやおろし』なんだ。これから良く聞かれるようになると思うから覚えておけよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます