キリン秋味 ⑤

 お酒の話ならいつものように出来た。この流れなら言いにくかったことも言えそうだ。

「少し前に母に言われたんです」

「何かあったのか?」

「はい……実は今年中に来年高校に復学するかしないか決めないといけないって、学校から言われたみたいです」

「どうするかは決まったのか?」

「決まってないです。でも…いつまでに決めるかは決めました。12月9日。

この日までに結論を出して、母に言いに行きます!」

「それじゃあ、その内容で最近悩んでいたんだな」

「えっ、何の話です?」

 まだ、先のことは決まっていない。もちろん考えてはいる。でも、思い悩むようなことは無かったのだが…

「最近、なんかずっと考え込んでいただろ? だから、その進路のことで悩んでいるのかと思っていたんだが、もしかして違ったのか?」

「関係なくはないですけど… 今この瞬間でその悩みは解決できました」

「うん?」

「僕が悩んでいたのは、この話をどうやって天音さんに言おうってことなんです。言い終えた今ならそんなに大変なことじゃないと分かるんですけど… いう勇気が出なくて… それと、忙しかったし…」

「なんだそんなことで悩んでいたのか… いくら忙しくても大事な話なら聞いてやる。気にせず言えよ」

 何故だか分からないが、天音は明らかに肩の力が抜けた。今まで気づかなかったがずっと肩の力を入れっぱなしだったのだ。

「すみません」

「てっきり…私みたいに………」

「てっきり何です?」

「うるさい。いちいちお前は細かいんだよ! それじゃあモテないぞ」

「今、もてるとかもてないとか関係ないですよね?」

「いや、ある」

「ないですよ」

「あるもんはあるんだ!」

 納得いかない… 僕だっていつかはモテ期が来るはず…

 

 ちょっと脱線したが、大事な話に戻る。

「12月9日か。お前も物好きだな。わざわざ誕生日にするなんてさ」

「いい区切りだと思って」

「まぁ、私もいいと思うぞ」

「本当ですか?」

「ああ、あとこれからはさっきみたいに言いにくいことでも気にせず言ってくれていい。

迷ったなら何度でも相談に乗ってやる。手伝えることなら何でも手伝ってやる。

お前は一人じゃない。私が、姐さんが、そのほかにもたくさんの人が付いているんだ。

だからさ、一人で抱え込むな。お前の頑張りを知っているみんなならきっと助けてくれるはずだから。安心して前へ進んでいけ!」


 天音に伝えたことで12月9日の期限は絶対に守らないといけないものになった。

 周りもこの期限を気にして動いてくれるだろう。

だからこそ、いい加減に期限を延ばしてしまったらその分迷惑をかけてしまう。

 ちょっと、プレッシャーにはなる。でも、人生を決めるということはこういうことなんだろう。それに、僕は一人じゃない。

母が、兄が、お店のお客さんたちが、それと天音がいるのだから。


みんなに自信を持って言えるような道を選ばないといけないな。

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