薩摩七夕 ②

「いきなりだけど、どんなのが良いと思う?」

 率直に聞いてみた。

「どうせなら今しか置けないのがいいですよね」

「それはどういう?」

「例えば、季節感出してみるとかですかね」

 季節感。やるとすれば夏らしくすることになるのかな?

「夏っぽいものかな?」

「あっ!」

 夏らしいお酒なんてあるかなって、考えているとたまきが何かを閃いたようだ。

「七夕飾りやりましょうよ!」

「今更?」

 七夕まであと数日しかない。今日中に準備できたとしても、置いておけるのは一週間にも満たないのだ。そもそも飾りを用意しようと思ったらそれなりに時間がかかるし…

 思考を巡らせていると、たまきの表情に陰りが見えてくる。

「今更じゃないですよ。 今しか出来ないんですよ! こんな風に一緒に考えられるのは今年だけなんですよ! 来年はないんです…」

 僕とたまきの関係は長くても三月までだ。

 まだ何も決まってないけど、たぶん僕は4月に復学し、たまきは高校へ進学する。

お互いに忙しくなっていき、何回かは会うだろけど、次第に疎遠になっていくだろう。

 僕と彼女の関係は言葉では言い表しにくいものだ。でも、その関係を彼女はすごく大事に思ってくれているのだと思う。だからこそ彼女はこんなにも熱心になってくれている。それが分かると、自分の中にもこみ上げてくるものがある。

「分かった。やろう!」

「ホントですか?」

 彼女は曇りをぱーっと吹き飛ばして、嬉しそうな表情を浮かべ出す。

「そうとなったら、たまき今日は終わるまで帰さないよ!」

「はい! あっ、でも門限には帰りますね」

「あっ、はい」


 それから二人で話し合って必要な物をピックアップした。

まずは七夕と言えば笹。でも、笹をそのまま置くのは飲食物を扱っている店としてどうなのかという話になり、色々調べてみるとマスキングテープを切って貼ってすれば笹みたいに出来ると分かり、棚にコルクボードを立てかけてそこに作れば片付けも楽だから、マスキングテープで笹を作ることにする。

 次に、笹と言えば短冊。お願いごとをいくつか書いて貼ってあれば七夕感が上がるに違いない。これも調べてみたら普通に売っているみたいだから買うことに。

 あとの飾りは折り紙で作ることになった。

店になくて必要そうなものが、マスキングテープ、短冊、折り紙。

それらを買いにたまきは百均に走ってくれている。

 僕は店番をしながら、棚に大き目のコルクボードを立てかける。

そして、念のために裏側をカートンテープで留めておく。

これでたまきが戻ってくる前に出来ることが終わったのだが、そこでふと我に返る。

彼女の思いに流されてここまで来たが、そもそもここは酒屋なのだ。

飾りつけもいいがお酒を売らないといけない。

「七夕っぽいお酒ってあるか?」

 商品一覧のリストを眺める。何枚も綴られている紙を何度も見直してみる。

それでも、思いつかず店の棚を見ることに。

 首を上げ下げして、色々なお酒を見ていると一本のお酒に目が留まる。

「これは使えるかもしれない」

 それから、他にも良さそうなお酒を見つけた。

「決めた! 今回は七夕焼酎フェアにしよう!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る