薩摩七夕
「酒の大沢」
の僕が管理している棚の売れ行きがあんまりよくない。
新しいチューハイを増やしてみたり、積み方を変えたり、POPを変えたりとか色々試してみてはいるのだがいまいち効果がない。
最初の内は、目新しさからチューハイを買うつもりのない人も覗いてくれていた。
でも、段々と慣れていくにしたがって風景の一部に成り下がっている。
もうチューハイ一本では無理なのかもしれない。
このままでも、常連さんは買ってくれるけど新しいお客さんは付かない。
「よしっ、入れ替えますか!」
ちょうど他の棚を整理したばかりで、スペースが出来ている。
チューハイはそっちに置けばいい。
やるなら今しかない!
缶チューハイの大行進が始まる。
移動は苦も無く終わった。
でも、ここからが本当の闘いだ。
以前、天音に渡された発注可能リストと睨めっこ。
あの字の羅列を眺めていく。
「何がいいかな~」
ワインは未だに良く分からないし、ビールは冷蔵庫にパンパンに入っている。
それなら、焼酎か日本酒、ウイスキー辺りが良さそうだけど飲んだことが無いからどれがいいか分からないし、ただ並べるだけじゃまたチューハイと同じ末路になる気がする。
前回チューハイを選んだ時のように博打で選ぶのもいいもしれないが…
頭を絞っているとチーンと鐘が鳴り響く。
店に入ってきたのは、なじみの顔。
半そでのセーラー服を着こなし涼し気な様子の、夏バージョンになった中町たまきだ。
「お兄さん~ こんにちは」
最近では着替えずに来るなって言わなくなった。何回言っても聞きやしないから。
いつものようにスタスタとレジの方へ歩いてくる。
「学校、お疲れさま」
「たまきちゃんお疲れです。労ってください~」
「はいはい」
たまきを軽くあしらい、睨めっこを再開する。
隣で勉強道具を広げているたまきは店の変化に気づいたようだ。
「あれっ? 目の前の棚どうしたんです?」
「ああ、ガラッと変えようと思ってね」
「楽しそう!」
たまきは目をキラキラさせながら食いついてきた。
「楽しくないよ…」
「えーっ、そんなことないですよ。自分で好きなように並べられるんですよね?」
「あ、うん」
「私も手伝っていいですか?」
最初は遊びじゃないと断ろうと思ったが、案外彼女の提案を受けるのもありかもしれない。だって、男一人で考えるよりも女の子が協力してくれたほうが、絶対可愛い感じで目を引く棚が作れるから。
「お願いしようかな」
「任せてくださいよ!」
彼女はエッヘンって胸を張りながらそういうのだった。
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