中々

「酒の大沢」

 では、緑色と茶色の一緒瓶を引き取っている。

 ただ回収するだけでなく、一本5円で買い取っている。

 何故、お金を払って回収しているのかというと、茶色と緑の一升瓶は洗って殺菌し繰り返し使われている。いわゆるリターナルブル瓶と言われている瓶たちは、業者が回収する時にお金をくれるのだ。そのお金のおかげでこうしてお客さんにお金を払って回収することが出来ているのだ。他にもビールの瓶や樽、瓶ジュースもお金になるものがある。

 何気なく捨てる前に、お金になるか調べてみるのもいいかもしれない。

 似ていても、回収できないものもあるからその点は注意!

 ちなみに僕は今、回収した瓶をまとめている。

 一升瓶が六本入るP箱と呼ばれる箱がある。

その箱に六本入れて初めて、業者が回収してくれるからその回収のための準備をしているのだ。近くの居酒屋さんがたくさん持って来たから、その仕分けも兼ねて作業している。

「あれ?」

 一本の一升瓶に目が付く。

 茶色の一升瓶に白いペンで「まっちゃん」と書かれているのだ。

「何だろこれ?」

 たまに同じような瓶を見ることがあるが、いつもはスルーしていた。

でも、なぜか今日は気になったのだ。

「後で天音さんに聞いてみるかな~」

 とりあえず、その瓶をよけて他の瓶を片付けていく。

 それから、明日天音が回収業者に持って行ってくれるから、トラックの荷台に詰めて行く。

それが終わって、一息ついていると天音も暇そうにしているからよけていた瓶を持って尋ねてみる。

「天音さん、この白い字なんで書かれているんですか?」

「あ? 何の話だ?」

「これですよ。この瓶にある白いペンの字ですよ!」

「ああ、これか。これは飲み屋とかでボトルキープの目印に使われているんだよ」

「ボトルキープ?」

「簡単に言うと、飲みかけの酒を店に一定期間置いといてくれる。とか、先にボトルを買っておくとかかな」

「へぇー、たまに絵とかも書いてありますけど、それもそのため何ですかね?」

「たぶんそうだな。コーヒー屋さんとかでもカップに絵を描いてくれるところがあるだろ?

それと同じように見分けやすくするために書く店もあるみたいだ」

「なるほど。ありがとうございます」

「そういえば、ボトルキープで書かれた字で面白いのがあって店に残してるのがあるんだ。

ちょっと待ってろ」

 そう言い残して、天音は店の奥に消えていった。

 そうして、5分くらい経って戻ってきた天音の手には一本の一升瓶が握られていた。

そして、その瓶のラベルの上には可愛らしい丸っこい字で、短い文が書かれていた。


『修君 結婚してください』


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