中々 ②

「何ですこれ?」


『修君 結婚してください』


 と書かれている。

読んだ通りの意味なら、求婚しているのだろう。

でも、普通なら直接伝えたり、手紙にしたり、今ならLINEしたりするはず。

わざわざ、酒瓶にこんな風に書くわけが分からない。

「この瓶はうちの店のお得意さんの店から引き取った瓶だよ」

「それは分かりますけど…なんでこんな酒瓶なんかに」

「ここから少し離れたところにある飲み屋での話だ—————」


『さぶろう』っていう飲み屋がこの町にある。

 そこはすごく繁盛しているわけではないけれど、色々な焼酎がボトルキープ出来て、料理が旨いから、焼酎好きは足繁く通っている。

 常連さんも多く、実家のような安心感があるのも売りだ。

 常連さんの中にある男性がいたんだ。その男性は、『中々』と言う麦焼酎を好んでいて、ボトルキープして毎日店に通っていたそうだ。

 ある時、いつもは一人で店に来る男性が女性を連れて店に来た。

いつもはのんびりと静かに飲んでいるのに、その女性がいるときは子供のようにはしゃいでいた。

 それから、定期的に二人で店に来るようになり、いつからか女性も常連になっていた。

そして、女性は一人でも来るようになった。

 女性は、男性にボトルキープを好きに飲んでいいと言われていたから、毎回一杯だけそのキープからお酒を貰っていた。

 そんな風に二人の姿がすっかり店に馴染んできたある日———

男性は大きなため息をつきながら店に入ってきた。


「どうしたよ? そんなしけたツラしてさ」

『さぶろう』の大将が男性に話しかける。

「い、いえ。いつものお願いします」

「はいよ」

 いつものメニューの串揚げと『中々』を持って来た大将が

「あの子と上手く言ってないのか?」と尋ねた。

すると、男性は豆鉄砲食らったみたいな顔をして

「な、何で分かるんです?」

「お前さんたちの事ずっと見ているワシが分からんわけないだろ? 相談に乗ってやろうか?」

 大将の問いかけに、迷いを見せた男性であったが、少し悩んだ末に決心したような表情になって話し出した。

「あの子、いや美夢さんと少し前からお付き合いしているんです。可愛いし、お酒の好みも合うし、献身的だし、本当に最高の女性なんです。出来たら結婚したいんですが…」

「なら、プロポーズすればいいじゃねえか」

「怖いんです… もし彼女がそんなつもりじゃなかったら… 僕との関係は遊びだったとしたら… そんな風に思うと怖くてなかなか言い出せないんです」

「若いって良いな! そんな風に思い悩めるのも若いうちだけさ。俺みたいに年食っちまうとさ、そんな風に甘酸っぱい思いもしなくなる」

「大将も十分若いですよ」

「世辞はいらんよ。まぁ、もう少し頑張ってみなや。それでもだめなら、ワシも助けてやるからさ」

「はい…」


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