贅沢搾り ②
チーン
「いらっしゃいませ」
またか……
今日も昨日と同じショートボブの女の子が入ってきた。
店に入ると同時に、店の中を見渡して他にお客さんがいないことを確認すると、これまた同じようにチューハイの前に陣取り、眺めはじめる。
声をかけようかと思っていたが、棚を眺めているだけで声をかけるのもおかしいかと思い、ぐっとこらえて観察を続ける。
時折、チューハイ手を伸ばそうとして、すぐに手を戻す。を何回も繰り返している。やはり、どこか怪しい。そんな気がする。
そのまま、暫く観察していると女の子は意を決したように、ぐっと贅沢搾りを一缶握る。僕はそれをみて緊張を高める。
ポケットに入れたり、持ったまま店を出ようとしたりしたら声をかけないといけないから。
緊張しながら眺めていると、女の子が動き出した。
行き先は——————————
僕がいる『レジ』であった。
女の子は手に持った一本の贅沢搾りをレジカウンターに置くと、無言でコインカウンターにお金を置く。持ってきた贅沢搾りは色的に桃味だろう。おかれたお金は贅沢搾り価格と同じだけ。
つまり、万引きとかでなく普通に贅沢搾りを買おうとしているのだろう。
いつもなら何も考えずに、お代を受け取って袋詰めするのだが……
今回はそうはいかない。
もし、僕が思っているように目の前の女性が、僕よりも幼い女の子であったとしたら……
そこで、魔法の言葉を女の子に投げかける。
「すみません、年齢の確認できるものをお持ちですか?」
この店に来てこんな風に尋ねたのは初めてだ。
だって、明らかに成人している人しか店に来ないから。
でも、ある時天音に言われたのだ。
「未成年っぽい人が来たら、必ず年齢確認しろ」って。
そのことを覚えていたから、こうして尋ねることにした。
僕が放った言葉に女の子はブルブルと体を震わせる。
ビクッとしたって感じに。
僕は、何度も言うのは失礼かと思い黙って女の子を待ち続ける。
その間、女の子は一切動こうとしない。
成人しているなら、身分証明書を見せればいいだけなのにそれをしようとしない。
間違いない。この子は未成年だ。
さて、どうしようかな……
依然として、女の子は目の前にいる。
一歩も動かずにそこにいるのだ。
頑なにその場から動かない女の子に、店員として何か言わないといけないと思う。
だけど、なんていえばいいのかが分からない。
早く、天音さん帰ってきてよ~
と思っていると
チーン
「いらっしゃいませ」
待ちわびていた天音ではないが、お客さんが入ってきた。
すると、目の前の女の子は、焦って周りを確認し始め、入ってきたお客さんに見られないようなルートでびゅーっと外へ出て行ってしまったのだ。
僕とレジに置かれた贅沢搾りを置き去りにして。
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