贅沢搾り ③

二日後—————


チーン

「いらっしゃいませ」


 またまた女の子のお出ましだ。

 いつもと同じように、グルグルと店を見渡し始める。

 僕はその姿を見ると同時にあるボタンを押す。それから、女の子に注意を向ける。

 女の子は他にお客さんがいないと分かると、チューハイの前に行く。

ここまでは、いつも通りだったのだが、ここからがいつもとは違った。

 チューハイの前に行くとすぐに、贅沢搾りを手に取る。そして、そのままレジに来たのだ。

 いつもとは違う動きに少し面食らったが、それを表に出さないように気を付けながら、女の子に声をかける。

「ありがとうございます。購入前に年齢確認よろしいですか?」

 女の子が、コイントレーにお金を入れるのを見てからそう尋ねる。

「…………」

 女の子は無言を貫くつもりのようだ。

「年齢確認がないとお売りできません。ご協力お願いします」

 念を押すように言っても、口を開く様子がない。

 

 二人とも口を開かぬまま、何も変わらない時間が数分続く。

 女の子は黙ったまま、頑なに動こうとしない。

おそらくだが、売ってもらえるか、他のお客さんが来ない限りこのままい続けるのだろう。

まだなのか……、早く来てよ

あるものを待ち続けているのだが、未だに何もない。

繋がっているから状況は伝わっているはずなのに……

 僕はある使命を受けている。

それは、目の前の女の子を足止めすること。

 いつもの流れ的に、このまま黙り続けていても、もうしばらくは時間が稼げるだろう。

でも、それで足りるか分からない。

 そこで何か手を打つべきなのではと思い始めてきた。

 他にお客さんが来た時点でまた逃げられてしまう。そうなると色々と面倒。

だからこそ、このままここにいてもらうために何か手を打たないといけない。

 最初に思いついたのは、

「いい感じに話しかける」

 女の子が興味を持つような話をして、注意を惹く。

すぐに没にする。

 そんなコミュニケーション能力は僕に備わってない。

 次の案

「店のカギを閉める」

 入口にあるカギを閉めれば、新しいお客さんが入ってこられなくなるし、女の子も出られなくなる。一石二鳥だ。


「……………………………………………………」


 ダメに決まっている。そんなことしたら、犯罪者の仲間入りだ。

他だ他!

 なら、「腕をつかんでどこにも行けなくする」とかは?

って、これも犯罪者の仲間入りですね。


 はぁー、早く来てよ~ 天音さん~


チーン

 その音に、僕と女の子の視線が入り口に向かう。

そして、そこにいるのは待ちに待った姿であった。

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