キリン一番搾り ⑤

 ビールの樽をホームセンターとかで売っている青色のスチール台車にのせる。

台車の中央に、樽を設置。

転がってしまわないように、紐で樽を固定。

地図もオーケー。伝票も持っている。

 さぁ、準備万端だ。

「行くぞ!」

 パーンと両頬を自分で叩いて、活を入れて走り出す。


ガタガタ、ガタガタ

トテトテ、トテトテ

ガタガタ、ガタガタ

トテトテ、トテトテ

ガタガタ、ガタガタ

トテトテ、トテトテ


 台車に乗った樽が揺れる音と、自分の足音がぎこちないリズムを奏でる。

今は一本道だからただ進むだけ。

でも、目の前には大きな坂が。

「とりゃーーーあーーー」

 力いっぱい大地をけって登っていく。

20kgもある樽を乗せているせいか、思うように進まないが知ったことか。

「どりゃーーあーーーー」

突き進むのみ!

その調子で、下り道も。

樽が転がり落ちないように気を付けながら。

「どりゃーーあーー」


「はぁ、はぁ、はぁ」

 10分も走ると、配達先の店に着いた。

だけどそれで終わりではないのだ。

「どっこいしょ」

 樽を抱きかかえる。

ス—————と息を吸って

「どりゃあーーーー」

 階段を駆け上がる。

下を向いたらきつくなりそうだから、ひたすら上を向いて

「とりゃーーーー」


「お待たせしました! 酒の大沢です!」


 これで一週目。

もう四分の一も終わった。

次で半分になる。

何だ楽じゃん!

すぐ終わる。

あと、たった三週。

楽勝楽勝! 

 そんな風に自分を無理やり前向きに持っていく。

 後ろ向きになると、そのまま一緒に心が折れてしまいそうだから。

前だけ、前だけを向いてひたすらに走る。


二時間後——————


「お、終わった————!」

 何度も往復している僕を見かねた先方が、二個配達を終えた時点でゆっくりでいいと言ってくれたが、早く終わらせたかったから走り続けた。

 それでも、疲れは僕を蝕み、足は思うように動かなくなってくる。

最初の一回目は15分で往復出来ていたが、次第にその時間は伸びてゆき、4週目にもなると片道で30分以上もかかってしまった。

 それでも、先方が指定した二時間を守ることが出来た。


 配達を終えて、とぼとぼと帰路につく。

体は疲れているはずなのに、心はすごく元気になっている。

やり遂げられたと分かってからずっとこうなのだ。

これは何なのだろうか?

 全身汗だくで喉がカラカラだ。

あー、早くシャワー浴びたい、お茶飲みたい

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