キリン一番搾り
「酒の大沢」
に限った話ではないが、酒屋では重い荷物を運ぶことが多い。
水分がたくさん入った酒類は案外重い。
それに加えて、包装の瓶と缶もそこそこの重さがある。
そのため、缶ビール一ケースで8kgくらい、ビールの大瓶だと20kg、ビール樽は種類によっては30kgくらいあるものまである。
持ち上げるだけでも大変なそれらを、トラックの荷台から降ろして店に積んでいく。軽い腕立てとか腹筋なんかよりも、体を使う仕事なのだ。
大きな酒屋だとフォークリフトを使って荷下ろしをするから楽なようだが、うちにはそんな便利なものはない。そのため、全部マンパワー。
そんな仕事をうちの店だと一週間に二回ほど行っている。
ここにきてすぐの時は、すぐにばててしまっていたが、体力が付いてきたのか最後までやり切ることは出来るようになってきた。
それでも、最後の方はハーハー息を切らしているから、まだまだ体力を付けないといけないと思う。朝早く起きてランニングでもしようかな~
重いものを運ぶということは、あることが付きものになる。
それは——————
『腰を痛める』
ということだ。
重いものを変な態勢で持つと、簡単に腰を痛める。
僕も最初、腰を曲げて下にある荷物を取ろうとしたら天音に注意されたことがある。
その時に、下にある荷物を取るときは必ず膝を曲げて取るようにと教わった。
そのおかげか、まだ腰を痛めたことは無い。
教えてもらっていなければ、今頃腰はひどいことになっていただろう。
想像しただけでも恐ろしい。
おっと、こんなこと考えてないで、納品に集中しないと怪我するな。気を付けないと。
今更だが、僕たちはトラックから荷物を下ろしている。
最近、客入りが多いせいかトラックは荷物でパンパンだ。
お客さんの相手をしながら降ろしているから、いつになっても終わりが見えてこない。
今日中に終わるのかな?
「ふう~」
朝一から始まった納品も昼前にはだいぶ終わりが見えてきた。
それでも、奥の方に重い荷物が固まっているからまだ気は抜けない。
気を抜いたら——————
「う、う、やば、ぎ、ぎ、ぎやややーーー」
こんな風に悲鳴を上げることになりかねない。
うん?
悲鳴?
今、悲鳴が聞こえなかった?
耳に入った悲鳴のような音を思い出す。
キィーと耳を裂くような音。
どこか聞き覚えのある声だった気がする。
今、近くにいるのは———————— 一人しかいない。
「天音さん! 大丈夫ですか! 天音さん!」
急いでトラックの荷台から飛び降りて、悲鳴がした店へと飛び込む。
すると、そこには横たわった天音の姿があった。
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