キリン一番搾り ②
「天音さん! 大丈夫ですか? 天音さん返事して!」
人が倒れている状況に遭遇したのが初めてで、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。考えようとしても、アツアツの頭は動いてくれない。
「う、う、う、う」
天音が死にそうな声で唸っている。
「天音さん、どうしたんです?」
とりあえず息があることに安心はしたが、それでも倒れている時点で何かあったに違いない。
「う、う、う、う」
「天音さん、大丈夫ですか? 救急車呼びますか? それとも…… あ、とりあえず、温かいところに連れて行ってあげますね」
このまま、隙間風が吹くような店で横たわっていたら、もっと悪くなってしまいかねない。急いで運ばないと!
天音の肩に手をやって、持ち上げようとすると
「や、や、や、め、ろ……」
くぐもった声で何かを言っている。
その声に一瞬手が止まる。
だが、そんなの気にしていられない。
もう一度、肩に手をまわして持ち上げようとすると
「だから、やめろ! 動かすな!」
天音の力一杯の叫びが店の中を響き渡る。
相当大きな声だったのか、周りの酒の水面が揺れ出している。
天音のこんな声なんて聴いたことが無いから、完全に頭が止まってしまった。
そのまま天音を寝かしたまま何もできないでいると、少し楽になったのか天音が話し始めた。
「すまん、大輔~ 町医者に電話してくれ。たぶんぎっくり腰だ~」
「わ、分かりました!」
リニアモーターカーの比じゃないくらいの速さで、受話器の前に移動し、メモ書きにある町医者に電話をかける。
「これは、ぎっくり腰だね~」
電話して30分もすると、町医者が来てくれて呑気に予想通りの言葉を告げる。
「天音さんに限ってそんなことないですよ~」
「誰にでもぎっくり腰はつきものだよ~ 椅子から立っただけでなる人もいるんだよ。
若くてもなるもんさ。君も他人事じゃないからね」
「はぁ、肝に銘じておきます」
軽い診断の後、お医者さんと僕の二人がかりで布団まで天音を運ぶ。
思ったよりも軽くて驚いたが、よく考えなくても天音は女性なのだ。
軽くて当たり前なのだ。
いつもの強いイメージのせいで女性だということを忘れていた。
前に同じようなことで怒られているし、気を付けないとなぁ~
運んでいる間も彼女は「う~」とか「あ~」とか変な声を上げ続けていた。
布団まで運ぶとお医者さんが
「とりあえず、安静にしてね」と呑気に言い、痛み止めと湿布を処方して帰っていった。
天音は依然として、変な声を上げたままなのに。
これから僕はどうするべきなのだろうか……
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