ドライプレミアム豊穣 ④

 あの後も、ワンカップお兄さんは悩み続けた。

うーん、うーん、うーん、うーんって。

僕と百合の説得でやっと諦めてくれた。

それから二人にお礼を言って帰路につく。 

 そういえば、ビールの感想とお兄さんの話を聞き損ねているが、まぁ、今度店に来てくれた時でもいいだろう。

 手には一杯の白菜があるからとりあえず家に戻ろうと思う。

てくてくと歩きながら、考え事をする。

「自分のために使ったか……」

 お兄さんの初給料は、欲しかったものになった様だ。

それが何か気にはなるが、この際どうでもいい。

知りたかったことは知れた。

 百合とお兄さん二人とも何かを買ったということは同じだ。

だけど、記憶に残っている人もいればそうでない人もいる。

 どうせ使うなら一生思い出になるようなことをしたいと思う。

なら、どうすれば?

 二人の使い道の違いを考える。

何が違うのかを。

「あっ!」

 決定的な違いを見つける。

それは、自分のためか、他人のためかだ。

 自分の欲しかったものは、買う前死ぬほど欲しくても買った後はどうでもよくなりやすい。実際、欲しくてたまらなかったゲームで、買ってからほとんどやらなかったものもあった。

でも、人のために贈った物ならば、それを使ってもらえたならば、贈った時の気持ちを忘れずにいられるのではないか?

 自分が贈った物で相手が笑顔になってくれたら、その記憶はずっと残るのではないか?

 「酒の大沢」でもらえる給料はこれが最初で最後かもしれない。でも、そのうち僕も就職して、給料を貰うことになる。その時に好きなものは買える。

 なら、ものよりも一生残るような思い出が欲しい!

初めての給料はこの一万円札以外ないのだから。


 考えはまとまった。

僕も百合のように『感謝』を伝えるためにお金を使う。

だれに感謝するかって?

もう決まっている。

二人に。

僕が、こうやって立ち直れたのは二人のおかげだ。

強引な二人のおかげ。

 まだまだ、宙ぶらりんなことは多いがそれでも、どん底から這い上がらせてくれた。

その感謝を伝えたい。


 いつの間にか、家についていた。

でも、用事が出来た。

 白菜を玄関に置いて、もう一度家を出る。

二人への贈り物を探す旅に。

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