ドライプレミアム豊穣 ③
中に入ってきたのは、ワンカップのお兄さんこと堀田正志であった。
いつものようにサイズ感の合っていないコート姿。
この姿にも慣れてきたのか、変に思わなくなってきた。
「いやー、奇遇だね。大輔君。君もここにいるとは思わなかったよ」
「どうも」
「僕の挨拶取られてしまったね」
「堀田さんこそどうして?」
「ああ、家の畑で白菜がたくさんできたからおすそ分けだよ。沢山あることだし君も持っていきな」
そういって、沢山の白菜が詰まった段ボールを突き出してきた。
同様に百合さんにも。
「あらあら、こんなにたくさんありがとうね」
「いえいえ、家族だけじゃ食べきれないので」
「それより、大輔君はなんでここにいるんだい?」
「それは……」
返答をしようといていると、百合が口を挟む。
「いい機会だし、正志君にも聞いてみたら?」
「何の話です?」
ワンカップお兄さんはいまいち話が読めていないようだ。
お兄さんに今までの話を説明する。
すると、彼は自分の事のように喜んでくれた。
「君の頑張りが認められたみたいで、嬉しいな。なら、もっと白菜持っていきなよ」
そう言って、さらに白菜を押し付けてくる。
「あ、ありがとうございます」
「そういえば僕の初給料の使い道だったよね?」
「お願いします」
お兄さんは百合さん同様考え始めた。
うーん、うーん、うーん、うーんとひたすら考える。
でも、一向にその声は止まない。
そんな姿に百合が助け舟を出してくれる。
「最初にお給料を貰ったのはいつだったの?」
「確か、高2の夏に短期バイトで海の家に行ったはず……」
「始めた理由とか覚えていない?」
「何かが欲しかった気がするんです。確か買えた気もする。でも何だったか思い出せないんです。凄く欲しかったもののはずなんですが……」
もう一度、うーん、うーんと唸りだす。
それでも、思い出せないのか暫くすると
「済まない。何を買ったのか思い出せない。今すぐ思い出すから、もう少し、もう少し、もう少しだけ待ってくれ! 喉までは上がってきている気がするんだ。あと少し、あと少しなんだ」
段々熱が入ってきている。ダメそうな気がする。
「もう、大丈夫です。知りたかったことは分かりました。そんなに悩まないで~」
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