ほろよい アイスティーサワー ④

「おい、大輔決まったのか?」

「決まりました!」

「何を並べるんだ?」

 天音は今日まで期限があるはずなのに、待つのがじれったくなってそわそわし始めた。

まだ粘れるかもしれないが、何か言われるなら早いほうがいいと思って提出する。

 あとで、聞いたのだが名前の横に書かれている数字は「最低発注数」であった。

つまり、1なら1個から仕入れられるし、10なら10個入れないといけないということだ。

そのせいで、最初に思い描いていたよりも相当数が多くなったが、まぁ、何とかなるだろう。

 手書きでまとめた欲しいものリストを天音に渡す。

彼女は受け取ると、まじまじと眺め、笑い出した。

「こう来たか。どうしてこうしたか考えはあるのか?」

「えーっと、店を回って思ったんです。うちにはチューハイがないってことに。

他の種類の酒は無駄にたくさんあるのに、チューハイは10種類にも満たない。

だから、この機にふやしてみようと思ったんです!」

「なるほどな。お前の考えは分かった。もう一度聞くが、本当にこれでいいんだな? 数もいいんだな?」

「はい!」


 三日後、僕が頼んだ商品が届いた。

荷台に山盛りに積まれたチューハイケースが。

「なんでこんなことに……」

 思い描いていた数倍以上の量が届いたのだ。

 軽い気持ちで、チューハイを揃えようと決めた。

そして、たくさんある種類から、聞きなじみのある『ほろよい』と『キリン・ザ・ストロング』を入れることにした。有名なほうが売れる気がしたから。

 二つのチューハイには沢山のフレーバーがあることも分かった。一つや二つでは寂しそうだから、とりあえず取れるのを全部取ることにした。

 ここまでは、良かったと思う。

「最低発注数」に全てを狂わされた。

最初は、一種類5個ずつ入れるつもりだった。

売れないと困るから本当に少しずつ取るつもりだった。

だが、そこで判明した最低発注数によって、24個最低でも入れないといけないことが判明した。それが分かったのが、期限の少し前。もっと早く聞けばよかったのだが、運悪く天音の配達が忙しくて聞くに聞けなかったのだ。

 時間が迫って、どれを削るか決められなかった僕は、とりあえず全部24にした。

今思えば、やけくそになっていた。

 それが、最大のミス。

 目の前にある山。

チューハイの山。

僕の失敗を物語る山。

 天音はこうなることを分かっていたのだろう。

そのため確認もしてくれていたのに、何も考えず自信満々に返事をしてしまった……

過去の自分を殴りたくなってきた。

でも、まぁ、来てしまったものは仕方がない。この山のようなチューハイたちをどうにかするしかないようだ。


「さて、どう並べるかな」

 とりあえず、今日来たチューハイの種類を数える。

全部で20種類。

それが、一ケースずつ。つまり、24本ずつ。

 どうにか詰め込めば、与えられたスペースで収まるだろう。

でも、ただ積めば良いというものではない気がする。

 自分が行ったことのある店で酒はどんな風に積まれていただろうか?

 記憶をひたすら遡る。でも———————


「分かんない!」


 酒の大沢に来るまで酒に何ら興味がなかったから、店で見ようとしてこなかった。

そのせいで、参考になる記憶が皆無なのだ。それに、この店にもチューハイの陳列がほとんどないから真似しようがない。店を出て今すぐその辺のスーパーマーケットとかド〇キを除きに行きたいが、店番があるからそれもできない。

 どうにか、自分で考えるしかないようだ。

「待てよ?」

 真似するのは、別に酒の棚じゃなくてもいいんじゃないか?

ジュースとかお菓子とかでもいいんじゃないか?

 改めて自分の記憶を遡る。

「あった!」

 印象的な陳列を思い出した。

あれなら、このスペースでも出来るかもしれない。


 1時間もすると陳列が終わった。

まず、最初に一番下の広いスペースに缶チューハイを積み重ねて、ピラミッドのような山を作った。色が被らないように、配置に気を付けながら。

それから、チューハイが入っていたケースに書いてある絵を切り抜いて、棚に貼っていく。

最後に残ったものを普通に取れるように、陳列し値段のPOPを付けて完成だ。

 少し離れたところから、自分が作った棚を覗いてみる。

思った通り、一番下のピラミッドが目を引き、散りばめたケースの絵が棚の無機質さを無くしてくれている。それに、店に入った時やレジに来ようとした時に、目に入るようにもなっている。

「なかなかの出来じゃん!」

 思っていたよりもいい感じになって、自画自賛する。

早く天音が帰ってこないだろうか。見せるのが楽しみだ。


「へぇ~ 中々面白いな」

戻ってきた天音の反応もそんなに悪くはなかった。

「これで、売れるの間違いなしですね!」

「そうだといいな」

 煮え切らない感じの返答は気にはなったが、大丈夫なはずだ。

こんなにも目を引くのだから!

 嬉しくなって思わず、覚えたての単語

『スクリュードライバー!!!!!!』

って叫んでしまった。

 すぐに我に返って、誰にも見られなかったことに安堵する。

天音に見られていたら、一生ネタにされそうだから。

落ち着け、僕。

喜ぶのはまだ早いだろ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る