ギネスビール ②
「そういえばだけど、君には自己紹介していなかったね。済まない済まない」
以前のように落ち込んで暗くなっていないのは良いが、今のワンカップお兄さんは、何というか圧のようなものがあって少し苦手だ。
「いえいえ、お構いなく」
「構うさ。それで、僕の名前は堀田正志(ほったまさし)だ。あと、出来れば君の名前も教えてくれないかな?」
グイグイ来る感じがどうにも苦手だが、あんなに暗かった人がどうやって立ち直ったか気になるから、話を続けることにする。
「鵜飼大輔です。お願いしますね、堀田さん」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。大輔君!」
「それで、あの後何があったか聞いてもいいですか?」
相手がグイグイ来るなら、こちらもと単刀直入に切り出す。
「うっ! 容赦ないな」
口ではさも言いたくなさそうに言っているが、表情は「聞いて、聞いて」と言っている。
子どものように聞いてほしそうにしているのだ。だから、おぜん立てをする。
「すみません。どうにか教えてもらえませんか?」
そういうと、ぱーっと笑顔になって
「そこまで言うなら、教えてあげるよ~」
と言って話し始めた。
「僕は、三年目の不合格の山で正直参ってしまった。だから、あの時はもう頑張れないって思って『ダメ人間』になるんだって言い張っていた。ダメ人間になり切るために、見た目をわざとひどくして、酒に溺れるようなこともした」
あの時の感じた、アンバランスさはやっぱりわざとだったみたいだ。今では、無精ひげも綺麗にそられ、よれよれだったシャツも真っ白なものに変わり、ジーンズも鮮やかな色。
コートだけはちぐはぐなままなのは少し気になるが……
「でも、そんな僕を三田おばちゃんは見捨てなかった。あんな態度を取ったにも関わらず、僕の家に来てお茶に誘てくれたり、散歩のお誘いをしてくれたり、ご飯をおすそ分けしたりしてくれた。最初の内は辛らつな態度をとっていたけど、そのうち根負けして一緒に話すようになったんだ」
最近、百合さんが店に顔を出してくれないと感じていたが、そんなことをしていたのか。
流石、百合さん!
「三田おばちゃんと話していると、子供の頃の気持ちが思い出せたんだ。『みんなを守るんだ!』
って息巻いていた頃の気持ちをね。そしたら、段々と元気が戻ってきたわけさ。やけ酒もやめられたし、前を向こうって思えたんだよ」
「なるほど。じゃあ、うちには何しに来たんですか?」
ここは酒屋だ。酒を辞められたならわざわざ来る必要はない。
「ここからが一番大事な話なんだよ!」
レジカウンターをドンと叩きながら、顔を近づけてくる。
やっぱり苦手だ……
「三田おばちゃんが気を利かせて、警察官の知り合いを当たってくれたんだ。警察官になるために必要なことは何かって。」
「何だったんです?」
「体力、正義感、協調性、冷静さ。それと、自信だそうだ」
「はぁ」
言われてみればそうだが、はっきり言って曖昧な感じがする。特に自信とか。
「とりあえず、今の僕に足りていないものを補おうって考えたんだ。それで、一番足りていないものがあったんだよ。分かるかい?」
「何です?」
「自信さ。それで、どうすれば自信が付くか考えたんだけどまとまらなくて、三田おばちゃんに相談したらここを勧められたんだ。きっと助けてくれるって。お願いだ。未来の警察官に媚を売ると思って、相談に乗って欲しい! 自信の付け方を教えて欲しいんだ!」
警察官が自分から媚とか言うのはどうなんだろうか……
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