ギネスビール

「酒の大沢」

 つい先日までは、『はだか祭り』おかげで大変な賑わいを見せたが、祭りから日が経つにつれて、いつもの暇な姿を取り戻し始めた。

 どこからともなく発生していたオヤジたちもなりをひそめている。

何人かは「また来るぞ」って言っていたのになぁ~

 ただ、いつも通りになるだけなのだが、一度忙しさを経験していると、感覚がおかしくなっていて、何もすることが無い時間がさらに億劫になるのだ。

 朝一番の僕(鵜飼大輔)は日課になりつつある『二本縛り』の練習をしていれば、そのうち一人くらいはお客さんが来てくれると信じていた。

だが—————————


お客さんは誰も来ない。


 結局、あと一時間で昼休憩という時間になっても誰も来ないのだ。

「ぐぬぬ~」

 分かってはいたが、それでも誰も来ないのは何だかなって気持ちになる。

「ぐぬぬ~」


チーン

 唸っていると誰かお客さんが来たようだ。

ふと、時計を覗く。針は『十一時半』を指示している。

「あれっ?」

 午前十一時半

 何故かこの時間が懐かしい気がする。

「いらっしゃいませ」

と挨拶をしながら、入り口に目をやると、そこには丈が微妙に合っていない小さめなコートを身にまとった、角刈りのお兄さんが立っていた。


「お久しぶりです」

 声をかけるかどうか悩んだが、最近どうしていたのか気になって声をかける。

「どうも」

 角刈りのお兄さん、いや、ワンカップお兄さんと言ったほうが通りは良いだろうか。

ワンカップお兄さんは以前そうしていたように挨拶をしてきた。

「また、ワンカップを買いに来たんですか?」

 尋ねると、いきなりお兄さんは頭を下げた。

「あの時は、済まなかった!」

「あの時って?」

 聞かなくても分かり切っているが、思わず聞いてしまう。

「目の前でみっともなく喚き散らして、折角追ってきてくれた君を突き放すようなことを言ってしまった。本当に申し訳ない」

 このままだと土下座を始めそうな勢いだ。

そんなことは流石にさせられない。

「頭を上げてください!」

 焦りながら、言い続けると暫くして頭を上げてくれた。

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