竹鶴ピュアモルト ③
僕の運命を大きく変えた事件は、二年生の二学期。
それも、文化祭の準備中に起きた。
その時のクラスの出し物は何だっただろうか。
お化け屋敷? 射的? 迷路? 喫茶店?
そんな感じのありきたりな物だったと思う。
クラスのみんなは楽しそうに準備をしていた。
そんな時、僕は何していたかだって?
先生が見ていないから、サボっていたよ。
「こんな子供だましで夢中になれるなんて、羨ましいよ」
って傍観者を気取っていた気もするよ。
文化祭の準備に終わりが、見え始めたくらいの日。
僕は、ぼーっとしているのにも飽きて来て、教室を抜け出して裏庭で、ひなたぼっこをしていた。一時間くらいたってから、先生が戻ってくる最後くらいは、顔を出そうって思って教室に向かうと、重苦しい雰囲気が充満していた。
まぁ、自分には関係ないって顔して教室に入ると、ガタイのいい運動部の二人に押さえつけられた。いきなりのことに足掻く間もなく、僕はみんなの冷たい視線が集中する教室の中央に連れていかれ、口々に
「泥棒!」だとか「犯罪者!」、「みんなの邪魔をするな!」
などと罵声を浴びせられた。
意味が分からず、「えっ!?」って顔していると、その時のクラス長が今の状況を教えてくれた。
準備で足りない資材が出てきたから、買い出しに行くことになった。そこで、残りいくらあるのか会計が確認しようと自分の机を確認したら、そこにあったはずの予算の入った袋が無くなっていた。会計が机にしまったところを他の子が見ていたから、会計が無くしたわけじゃないのはすぐに分かった。そして、すぐに「誰かが盗んだんだ」って結論に至ったらしい。
そこから、生徒だけのクラス会が始まる。
止める人がいないクラス会。
まだ未熟な高校生たちだけの話し合い。それほど恐ろしいものはない。
みんなで責任のなすりつけ合い。
言葉の形をした暴力が飛び交う。
「お前だ」
「俺じゃない」
「あんただ」
「私じゃない」
「お前のせいだ」
「自分は悪くない。お前のせいだ」
罵倒のドッチボールが繰り広げられる中。誰かが言ったらしい。
「鵜飼だけが教室にいない。あいつが犯人だって」
そんな時に、ノコノコ教室に戻ってくるもんだから集中砲火になったんだとか。
僕じゃない、僕は知らないって釈明もした。
でも、みんな僕が犯人だって決めつけているからか、聞く耳持ってくれなかった。
そして、騒ぎを聞きつけて訪れた担任の先生によって、事態は一応収束。
本当に一応。
結局、『犯人捜し』はしなかった。
受験が来年に控える生徒が問題を起こしたってなると、進学に悪影響があるからとかいって、担任は捜さなかった。
そのまま、文化祭も終わった。
どこがギスギス、チクチク、ヒヤヒヤ、そんな感じの雰囲気のまま。
みんなの心にしこりのようなものが残ったまま。
そのしこりは次第に大きく膨れていった。
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