紹興酒「凍牌」
「酒の大沢」
小さな町にある、昔ながらの酒屋だ。
詳しくは知らないが、表に出ている看板の日焼けやびゅーびゅーと吹き込む隙間風、塗装がところどころ剥がれた壁、小学校の教室のような木を貼り合わせて作られた黒茶色の床などから、この店の長い年季がありありと伝わってくる。
今僕は、店の外に備え付けられた水道で作業をしている。
プス——————
軽く弾けたような音。
今やっている作業は、古くなって酸化が進み、濁り切ってしまったワインの廃棄。
朝一に、天音がワインの品質を確認して、劣化が進んでしまっているワインを棚から抜いたのだ。久しぶりに確認したと言っていたからか、結構な数を廃棄することになった。何本かましなのは、料理酒として使うために残すつもりだが、その分を抜いても結構な量。
少し前からワインオープナーでコルクを開けては、流し、開けては、流しをひたすら繰り返している。コルクを開けるのも少しテクニックがいるから、慣れるまでは一本開けるのにも時間がかかった。コルクが途中で割れて抜けなくなるものまであるから中々に難しい。
でも、いつの間にか慣れて来たのか、機械のように何も考えず、ぼーっとしながらでも出来るようになっている。
ぼーっと作業しながら劣化して濁ったワインを見ていると、ふとこんな風に思うのだ。
「僕のようだな」
昨日、僕はあることに気が付いた。
いや、目をそらし続けた現実にやっと気が付いたのかもしれない。
「僕には夢がない」
その現実は、重くのしかかる。
小学校や中学校の授業でみんなの前で『将来の夢』を語る授業があった。
僕は適当に当たり障りのない真似事を言って誤魔化していたが、本当にかなえたい夢を持っている人は輝いて見えた。
生き生きとかなえたい夢を語る姿。
サッカー選手やお相撲さん、宇宙飛行士、映画監督、お花屋さん、いい奥さんなど人によって異なるがそれぞれが輝いている。
店に並んでいる様々な酒たちが放つ色彩のように、それぞれは異なった色をしている。でも、すべてに共通していることがある。それが、「輝いている」ということだ。
キラキラと輝き続けているのだ。
でも、僕には夢がない。
輝いていない。
輝けない。
だから、僕は劣化しきったワインのようなものなのだ。
ドロドロとして、透明感がなく、光を通さない。
こんなにも濁り切った僕は、傍から見たらどんな色をしているんだろうか……
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