きれいな瞳

とむらうめろん

1 珍しいよね

 海が見えています。

 遮るものが何一つないこの景色は、誰もいないこの浜辺で一人佇んでいる私を、私自身の存在を忘れさせてくれます。

 夕日が落ちようとしていて、髪が風に煽られて、瞳から涙がすっと、流れ落ちました。

 

 

 走る車の助手席に座って恵は気分良く流行りの曲を口づさんでいた。

「まだ着かないの?」

 隣で運転する大和を急かしながらも好きな人と走る海岸沿いの道を幸せいっぱいの気持ちで楽しんでいる。

「あと一時間はかかるってさっき言っただろ?分かってて聞いてる?」

 少し眉をひそめながらも私の質問にきちんと答えてくれている。

 見た目的にはあまりかっこいいとは言えない人だけれど、優しくて思いやりがあって誰よりも私を大切にしてくれていた。

 運転する彼の横顔を独り占めできている自分の顔はきっとニヤけているんだろうと分かっていながらも、ニヤついてしまうのはもうしょうがない。諦めよう。

 このあたりは本当に景色が綺麗だ。

 何か特別有名な場所があるわけではないけれど、生まれ育ったこの町で、こんなにもきれいな景色を見ることができることに、私は誇らしい思いだった。

 

 二週間ほど前だろうか。大和が急に水族館に行きたいと言い出したのだ。

 いままでのデートと言えば、基本的に私が行きたいところに連れて行ってもらっていたのだが、今回は珍しく大和自身の希望によるものだった。

「あそこの水族館のイルカはとっても可愛いんだよ」

 と嬉しそうに話す大和を見ていたら自分まで嬉しい気持ちになった。

「じゃあ、、、、行こっか!」

 私が好きなのはこの人のこの顔なんだ。

 

 

「ねえ〜、まだ着かないの〜?」

 好きな人が自分を好きである事実を、私はゆっくりと噛み締めている。

 

 

 

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