公園に散歩に出掛けた男性が、そこで出会った老紳士と、なんだかおかしな討論を始めてしまうお話。
コミカルながらも不思議な空気の漂うショートショートです。端的に言ってしまうのであればワンアイデア的なお話、「空とはなんぞや?」という問いについて、登場人物ふたりが延々議論するだけの内容なのですけれど、でもその料理の仕方が面白い。展開のさせ方が巧みなのか、ついつい釣り込まれてしまう不思議な力があります。
序破急というのか、くっきり分かれた三分構成。特に序から破への展開、ごく普通の仄々とした日常の光景が、いきなり白熱の議論にシフトしていく、その勢いがもう本当に好き。独特の迫力というか、明らかに普通じゃない『何か』があると感じさせる力。討論で進んでいく(というか、それしかない)のもなんだか楽しいというか、気づけば意見の近い方を応援しながら読んでいました。ついつい主人公を「騙されんな! お前は間違ってない!」と擁護しちゃう感じ。
その上で。最終的に到着することになる、このお話の帰着点。度肝を抜かれたというか驚いたというか、この展開そのものは予測できなくとも、でも心のどこかで期待した通りの(またはそれ以上の)ものをぶつけてくれるのが最高でした。
この辺、あまり具体的に言ってしまうとネタバレになるため、ここで詳細に触れることは控えますけれど。でもただの作中での架空の議論に終わらず、しっかり物語してくれる終わり方。物語世界のルールが一段広がるというか、実は思っていたより広かったことをきっちり明かしてくれる感じ。この不思議さのありようというかショートショートらしさというか、創作だからこその面白みを見せてくれる、その姿勢の嬉しい作品でした。