第五話 人間、こわい
※
そして夜。あれこれ色々忙しくて、結局徹夜である。
「あー、しんど。今日はさっさと寝よう」
パジャマに着替えて、いつものようにベッドへダイブ。今日は珍しく、本当によく働いた。明日もきっと忙しい。
まあ、この平穏を守るためだ。平穏を維持するには努力が必要、これ大事。
で、そのまま寝ちゃおうと思ったのだが。いつのまにか、手元には物見の水晶玉。つい癖で持ってきてしまった。
「……ま、まあ。黒騎士が助かったかどうか、気になるもんね」
確認するだけだ。そう自分に言い訳して、水晶玉でルーシェの部屋を映した。
『やあルーシェ、怪我はすっかりよくなったようだねぇ』
『レイ……』
見えてきたのは、ベッドの端に腰掛けて笑うレイと、顔色は悪いが上体を起こせるくらいには回復したルーシェの姿だった。
ほっ、よかった。これで一安心……なんて、安堵で完全に気を緩めたその時だ。
『……うぅ』
「えっ」
『えっ』
アタシとレイが全く同じ反応をしてしまった。無理もない。
ルーシェが、あの負けず嫌いが、ぽろっと涙を零したのだから。
『ちょっ、る、ルーシェ?』
『国の危機だったのに……俺は傷を負って、寝込むだけだったなんて……』
『いや、それはお前のせいじゃ』
『レイにライバルだと認めて貰えたのに……頑張ってるのに……』
堰を切ったように、はらはらと泣き出すルーシェ。こんな弱々しい彼は見たことがない。呆気にとられていると、おもむろにレイが毛布を掴みルーシェを包んだ。
そして、毛布ごとぎゅっと抱き締めた。
『まったく、ルーシェは本当に可愛いなぁ。私はちゃんとお前の頑張りを見ているよ、元気になったらまた挑んできなさい』
『ううー……』
毛布の塊のまま、ぐすぐすと泣くルーシェの背を撫でるレイ。呆然としていると、不意にレイと目が合った。
そしてあろうことか、レイがにんまりと笑って、唇だけを動かしてはっきりと宣言した。
――この子だけはあげないよ。
「……はー、何そのマウント。こわっ、でも尊い」
推したちの過剰摂取による酩酊状態。いつベッドから落下したのかさえわからないが、起き上がる余力すらない。このまま朝まで床で過ごすことになるだろう。
魔王の魔法が、なぜレイにバレているのか。なんて疑問はもう、どうでもいい。レイは本当に神に愛されているのだろう。考えるだけ無駄だ。
だからアタシが願うことは、一つだけ。
「今すぐやつらの部屋の壁になりたい」
こうして、今夜もまた穏やかに過ぎていくのであった――
魔王様♀は推したち♂の部屋の壁になりたいそうです 風嵐むげん @m_kazarashi
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