箱がありました。開けますか? 開けませんか?
白川津 中々
■
田舎に帰ると丁度母が倉庫を掃除していた。
俺は「手伝うよ」と言って乱雑に積まれた荷物に手を付ける。壊れたVHSデッキや穴の空いたバケツなど、どうしてすぐに捨てなかったのかと疑問に思うようなゴミの中に、『封』と書かれた札の貼ってある木箱が出てきた。
「なんだいこりゃあ」
母に聞くと、「分からない」との返答。昔から、夫婦の趣味は互いに不干渉だったと思い出し項垂れる。募る疑問と好奇心。しかし、わざとらしく書かれた封の文字に加え、なんとも言えない不気味な雰囲気が俺を怖気させる。開けてはいけない。中を見たらきっと後悔すると、何故だか直感させるのだ。
「どうすんね。それ」
母の問。はてさてなんと返すか。
「……捨てるか」
結論は出た。
俺はその箱をなかった事にして焼却用の袋に入れ、さっさと手を洗い冷蔵庫から缶ビールを拝借して退屈なテレビ番組を視聴した。箱の中身は果たして何であったか知る由もないが、もはや捨てた物を空想したところで益体もない。解決しない問題に頭を悩ませるよりも、今日の昼飯についてでも頭を巡らせた方がまだ建設的である。箱の事は忘れよう。
俺は頭を切り替えて一週間の帰省を楽しみ実家を後にした。あの箱が何であれ、今頃は焼かれて灰となっているだろう。亡き父の元へ届けば幸いである。さて、今日も平和だ。
箱がありました。開けますか? 開けませんか? 白川津 中々 @taka1212384
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