バットー・バトル!

@tate_ala_arc

第1話『抜け、マンドラゴラ!』

 福岡県立・行橋独尊学園。

 桜舞う、夕暮れ時のグラウンド。そこに3人の生徒がいた。


 ひとりは、身長180センチほどもある、筋骨隆々の学生だ。名を鬼塚タカミチという。トレードマークの金髪リーゼントと長ランが春風に揺れる。その背中では、雄々しい鷹が羽を広げていた。


 もうひとりは、身長170センチほどのメガネをかけた男子学生だ。こちらは天ヶ瀬ミノル。制服をきっちり着込んでいる。


 数メートルの距離を以て向かい合うタカミチとミノル。二人は、その両腰に日本刀のようなものを提げている。通常の日本刀と比べてその鞘はかなり太く、交通標識の支柱ほどもある。


 一触即発の緊張感が漂う両者、その中間地点にて、ひとりの女生徒が佇んでいた。街を歩けば10人が10人振り返るほどの美女だ。名は天ヶ瀬ルカ。ミノルの姉であり、行橋独尊学園バトルマンドラゴラ部所属の2年生であり、そしてこの“決闘”の立会人 兼 審判だ。

 ルカは二人に視線を走らせ、口を開いた。


「じゃあ、ルールを確認ね。対峙式バトルマンドラゴラルール、3ラウンド制。1ラウンドは60秒。ダウン後、10秒以内に立ち上がらなければKOとします。時間切れの際は私基準で判定。オーケー?」

「はーい! ルカさん見とってくださいね! こんなしゃしゃり野郎、ちゃっちゃ捌いちゃりますけん!」

 タカミチは腕まくりして、ルカの言葉に応える。そんなタカミチを睨みつけたまま、対するミノルは静かに口を開いた。

「……姉さん、ひとつ提案だ。ハンデをつけよう」

「ハンデ?」

「ああ。相手はバトルマンドラゴラの未経験者。対する僕は全中3位のマンドラゴラーだ。いくらなんでもフェアじゃないだろう?」

「てめっ……ナメんじゃねーぞコラァッ!」

 吠えるタカミチをスルーして、ミノルは口を開いた。

「僕は最初の20秒、攻撃株を抜かない。それと……僕は一撃でも貰ったら負けで良い」

「ミノル……」

「上等だテメー! 後悔すんじゃねーぞ!」

 ──……どうして、こんなことになったのか。

 事の発端は、数時間前に遡る。


      ***


 数時間前。グラウンドの片隅、マンドラゴラ畑。

 そこでは、ルカが3人の不良に取り囲まれていた。

「ここは女ゴラの畑よ! ポイ捨てしないで!」

「はー? いいだろ別に? 肥料だよ肥料!」

「つかキミ可愛いね? 何年生?」

「きゃっ……離しなさいよ!」

 不良たちの足下には多数の吸い殻。これを先ほどルカが注意したのだ。

「へっへへへ。“きゃっ”だってよ! 威勢が良かったのは最初だけかァ?」

「いーいじゃねーかよ。遊ぼうぜェ?」

「そーそ。優しくすっからよー。ウシシシシ──」

 不良①が下卑た笑みを浮かべた、その時。

「おいこらァッ!」

 野太い叫び声がして。

「シシシ──カバブッッ!?」

 不良①の顔に、拳がめり込んだ。

「ケンちゃーん!?」

「俺っちのアイドルにィッ!」

 吹っ飛んだ仲間を目で追った不良②に、声の主は容赦なく追撃の拳を繰り出した。

「手ェ出してんじゃねぇぇっ!」

「へぶゥッ!?」

 ヤンキーだ。ルカは一瞬で確信した。

 身長180センチの逞しいガタイを持つそいつは、金髪、リーゼント、長ランの男子学生だった。その背中には雄々しい鷹の刺繍が施されている。

「なっ……!? お、お前ッ! 西中の鬼塚ッ……“鬼神”タカミチィッ!?」

 不良③が悲鳴をあげる。ヤンキー(タカミチというらしい)はグアッとそちらに振り返ると、その胸ぐらを掴んで持ち上げた。

「おいこのボケコラカスウンコ!」

「はひぃっ!?」

「そこの二人連れてさっさと消えろや! ぶちくらすぞ!」

「いや!? え!? なんで鬼塚が!? なんで!?」

「オイ聞いとんかちゃこのタコ! 俺っちのアイドル置いて消えろっち言いよんじゃ!」

 ぽかんとしたままのルカの視線の先で、タカミチは怒鳴りながら不良③をガクガクと揺さぶる。不良③はたまらず声をあげた。

「いやいやアイドルってなんなん!? お前も今日入学式やないと!? この子知り合い!?」

「んにゃ、初対面!」

「はぁっ!? なんねそれ!?」

「う〜〜〜〜るっせーな! 一目惚れっちゃ! 文句あるか!」

「はぁっ!?」

「いいからさっさ消えろっちゃ!」

「はいいぃぃぃっ!」

 タカミチの剣幕に押され、不良③は仲間を引きずって逃げていった。

「ったく……おとといきやがれボケナス!」

 逃げてゆく不良たちに怒鳴り、タカミチはルカへと振り返った。

「え、えーっと! ……あれ、なんやったっけ、そう、こういう時は……えーっと、あれだ」

「……?」

「だだ、だ、大丈夫かぃお嬢さん!」

「あ……えっと……」

 ひっくり返った声で言うタカミチに気圧されて、ルカはおずおずと頷いた。

「はい、大丈夫、です」

「いやぁっ! 元気そうでよかった! はっはっは!」

「喧嘩、お強いんですね……えーっと」

「おっ……鬼塚タカミチっス! 1年デス!」

「い、1年生なんですね……」

 デカすぎてそう見えなかった、という言葉を飲み込んで、ルカは口を開いた。

「えっ……と、私は天ヶ瀬ルカ。2年生」

「る、るるルカさんっっ! 可憐なお名前ですね!」

 そこまで言って、タカミチは話題を失ったらしい。しばし視線を彷徨わせた後、彼は肩を落とした。

「……そ……そ、そんじゃ、俺っちはこれで!」

 タカミチはそうして、そそくさと畑から立ち去ろうとした。が──


「おい、そこでなにをしている!」


 堂々とした声が、畑に響いた。

 振り返ったルカとタカミチの瞳に写ったのは、メガネをかけた男子生徒だった。天ヶ瀬ミノルだ。

 両腰提げた刀のような物──鞘入りマンドラゴラが、彼の歩調に合わせてゆらゆらと揺れていた。

「あん……? ンだテメェ?」

「ん……? ミノル!?」

 ルカがその名を呼ぶ。タカミチとミノルは共に目を見開いた。

「み、みみ、“ミノル”とな!? 呼び捨て!? るるるるルカさんこのメガネ野郎は一体!?」

「ああああ!? 姉さん!? そこでなにを!?」

 ミノルはタカミチを指さしながらズカズカと歩み出すと、腰の鞘入りマンドラゴラに手をかけた。

「そこのヤンキー! 貴様、今すぐ仕置きしてやる!」

 その瞳がギラリと輝く。射抜くようなミノルの視線を受け、古典的ヤンキー・タカミチは怒鳴り返した。

「ハァ!? お前なんかちゃこのメガネ──」

「ち、違うのミノル! この人は──」


 次の瞬間。

 ミコトが、抜刀した。


 pgieeeeeee!!!!!!!!

「カッ……」

 鞘型植木鉢から引き抜かれたマンドラゴラの悲鳴が、タカミチの脳を揺らして。

「あっちゃー……」

 彼はそのまま、畑に倒れ伏した。


    ***


 3時間後。学園の保健室にて。

「う……っ……」

「あ、鬼塚くん。目覚めた?」

 タカミチが目覚めた声がして、ルカはベットを覗き込んだ。頭痛がするのか、なにやら頭を抑えていた彼は、ルカの顔を見て飛び起きた。

「ひょあっ!? ルカさん!?」

「調子は……悪くなさそうだね? よかったよかった」

「お、おお俺っちは一体……確か、なんかメガネ野郎が喧嘩吹っ掛けてきて……」

 タカミチの言葉に、ルカは申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんなさいね、ミノルの勘違いで……」

「ミコト……そういやあのメガネ、ルカさんの弟さんでしたっけ」

「うん。君と同じ1年生だよ」

 頷いたルカに、タカミチは引き続き問いかける。

「なんか刀みてーなもん持ってましたけど……アイツがあれ抜いた瞬間、意識が飛んじまって。なんなんすかあれ?」

「バトルマンドラゴラ用のマンドラゴラよ。あの畑で育ててるのと同じやつ」

「バトル……マンドラゴラ? あの大根で喧嘩すんですか?」

 タチミチがそう言った、その時。保健室の扉が開いた。

「大根とは失礼だな。マンドラゴラを愚弄するな」

「あっ! てめぇ!」

 入ってきたミノルは、両手に水のペットボトルを持っていた。

「ありがとミノル」

「ん」

 ミノルはぶっきらぼうに頷くと、ルカに水を手渡す。そしてもう片方のペットボトルを開け、そちらは自分で飲んだ。

 そんなミノルに、タカミチは言葉を投げつけた。

「おいメガネ野郎! “すんません”くらい言えんのかっちゃ! 勘違いで人を気絶させといてよぉ!」

「ふん。勘違いされるような見た目をしている奴が悪い」

「ンだとォ!?」

「なんだ。やるのか? また昏倒させるぞ?」

 男二人はゼロ距離でガンを飛ばし合う。そんな様子を見て、ルカは慌てて間に割って入った。

「け、喧嘩はダメ! 大会、出場停止になっちゃうでしょ!」

「ア? 大会? バトルマンドラゴラに大会があるとね?」

「当然だろうリーゼント。バトルという言葉の意味を知らんのか貴様」

「ンだとこのメガネ!!? あー畜生、あったまきた!」

 サイドテーブルをバンと叩き、タカミチはミノルを指をさし、叫んだ。

「おいメガネ! そのバトルマンドラゴラで俺と勝負しろちゃ!」

「……は?」

「え!?」

 ぽかんとした姉妹を見回し、タカミチは不適に笑ってみせる。

「喧嘩がダメならてめーの土俵で戦ってやるっちゅーとんだ、メガネ野郎! 俺っちが勝ったらおめーは謝れ!」

「……。……良いだろう。身の程を教えてやる。あと……こちらからも条件だ」

 ミノルはタカミチを睨み返し、メガネを直して言い放った。

「僕が勝ったら、姉さんにまとわりつくのをやめろ」


    ***


 ──と、いう経緯で、この決闘に至るわけだ。

 ルカはため息をもうひとつついて、口を開く。

「はぁ……では両者、スピーカーの電源を入れてバッテリーを確認してください」

「電源、電源……っと。これか?」

 タカミチは鞘についた電源ボタンを押し込んだ。《マンドラゴラバトル──スタート》と発声音が響き、スピーカーONを知らせる。


 バトルマンドラゴラにおける武具は、マンドラゴラ本体と鞘型植木鉢、そしてそれに内蔵されたマイク、そしてボディスーツに仕込まれたスピーカーによって構成されている。

 マンドラゴラの悲鳴を鞘のマイクが拾い、ボディスーツの前面についた指向性スピーカーから発射する。指向性スピーカーのおかげで、マンドラゴラの声は周囲を巻き込むことなく、「相手のみ」に叩きつけられるのだ。


「オッケーみたいね。じゃ鬼塚くん、最後に確認ね。マンドラゴラの柄にスイッチがあるのはわかる?」

「はい! わかります!」


 バトルマンドラゴラのためのマンドラゴラは、刀の柄のように加工されており、手元にレバー状のスイッチがついている。

 右に倒せば攻撃用マンドラゴラ、左に倒せば防御用マンドラゴラとして、マイクが拾った悲鳴が編集されるのだ。防御用マンドラゴラは攻撃の音波をかき消すことができる。


「それを切り替えて攻撃と防御をするのよ! 右が攻撃だから、忘れないでね!」

「おっけーっス!」

「あと、マンドラゴラは鞘に収めれば再使用ができるわ! 土に触れればある程度は勝手に潜ってくれるから、とりあえず鞘に当てることだけ考えて! チャージ時間は10秒よ」

「まっかせてください!」

「よし。こんなとこかな。それじゃ、はじめましょ。両者、構えて」


 ルカは戦士たちを交互に一瞥する。

 タカミチは拳を握り、開き、握る。

 ミノルは静かに腰を落とし、居合の構えをとる。


 そしてルカは、厳かに宣言した。

「マンドラゴラバトル──はじめッ!」

「っしゃァッ!」

 pgiiiiiiiieeeeeeeeeeee!!

 開始1秒。タカミチが右のマンドラゴラを抜刀した。指向性スピーカーからマンドラゴラの声が発射され、グラウンドの砂を舞い上げながらミノルへと迫る。

「……ふん」

 対するミノルは眉ひとつ動かさず、防御用マンドラゴラを発動させた。

 pgyaaaaaaaaaaaa!!

 二つの音波は互いに打ち消し合い、対消滅!

「不意打ちのつもりか?」

「オラもう一丁ォッ!」

 pgiiiiiiiieeeeeeeeeeee!!

 タカミチは、今度は左のマンドラゴラを抜刀する。再度迫る攻撃を見て、ミノルは防御用マンドラゴラを再度──発動、しない!

「全中3位をナメてもらっちゃ困るんだよ」

 ミノルはそれを鼻で笑うと、流れるようなステップで指向性スピーカーの射線から外れてみせた。

「なっ……!? 紙一重でかわしやがった!?」

「どうしたリーゼント? 鞘に戻さないと再チャージはされないぞ?」

「ッ、う、うるせぇっ! 今やるとこっちゃ!」

 試合開始から8秒。タカミチがマンドラゴラを慌てて鞘に戻す。

 ここから10秒の間、タカミチはマンドラゴラすることができない。

「くそっ……!」

「やはり素人だな。バトルマンドラゴラはフィジカルだけの競技ではない。頭脳も必要なんだよ」

 ミノルのメガネがギラリと光る。あまりにもわかりやすい挑発。だが、タカミチの沸点は工業用アルコールより低かった。

「こーのーやーろーーーー!」

 タカミチは雄叫びを上げながら地を蹴る。その速度を見て、ルカとミノルは目を見開いた。

「え、速っ!?」

「……!」


 開始13秒。タカミチは瞬時に間合いを詰め、ミノルの死角へと滑り込む。慌てて振り返るミノルだが、その動きに合わせてタカミチもまた移動し、死角を維持する。

「へへっ! フツーの喧嘩ならテメーはこれで死んでるぜ!?」

「……残念ながらこれは、バトルマンドラゴラの試合だ。マンドラゴラされない限りは負けではない」

 ミノルは冷静にメガネを直した。そうして開始16秒、17秒──18秒。タカミチの右マンドラゴラが再使用可能となる。

「強がりもそこまでやぞメガネぇっ!」

 pgiiiiiiiieeeeeeeeeeee!!

 タカミチの右マンドラゴラが火を吹く。ほぼ密着状態、それもスピーカーのない背面での抜刀!

 ──その時。

「甘い」

 ミノルはその場で、液体の如く沈み、地に伏せてのけた。

「なっ……!?」

「この程度の攻撃、中学生でもできるぞ」


 試合開始、20秒。

 ミノルはタカミチの足下で即座に仰向けになり、抜刀する。

「まずその右腕、もらうぞ」

 pgyaaaaaaaaaaaa!!

 刹那、タカミチの右腕がマンドラゴラの音波に包まれる。同時に、タカミチの腕に激痛が走った。

「ぐあっ……!?」

 タカミチの右マンドラゴラが吹っ飛ばされ、宙を舞う。右腕の激痛に、タカミチは思わず距離を取る。が──

「……甘い」

 ミノルは即座に、左マンドラゴラを抜刀した。

 pgyaaaaaaaaaaaa!!

 爆音波がタカミチに襲いかかる! タカミチは必死に、左マンドラゴラのスイッチを切り替えた。

「ぼ、防御──ッッッ……!!?」

 pgiiiiieeeeeeeee!!!

 タイミングが遅れ、攻撃音波の一部がタカミチの脳を揺らす!

 あまりの激痛に、タカミチは左マンドラゴラを取り落とし、膝をついてしまった。


 開始30秒。彼らの向こう、先ほど宙を待っていた右マンドラゴラが地面に突き刺さり、もぞもぞと大地に潜った。

「……瞬殺ね」

 その光景を見て、ルカがポツリと呟いた。開始30秒にして、すでにKO目前だ。

「ッ……か、かすっただけでこれかよ……!?」

「これがバトルマンドラゴラだ。わかったかチンピラ」


 開始33秒。ミノルは油断なく納刀。柄に手が添えられたままだ。このラウンドで早くもキメるつもりだろう。 

「さぁどうする。貴様のマンドラゴラはもう尽きた。僕は10秒後に抜刀し、君をマンドラゴラするだけ。詰みだ」

「ッ……くそっ……!」

「もう一度聞くぞ。どうする? 降参すればこれ以上の攻撃は加えずにおいてやるが」


 開始37秒、38秒、39秒──


「……まだだ」

「なに?」

「まだ、終わってねぇ!」


 開始40秒、タカミチが地を蹴った。10秒前、地面に刺さったマンドラゴラに飛びつく!


「ハッ! 根性は認めよう! だが無駄だ!」

「ダメよ鬼塚くん! 鞘と違い、天然土に埋もれたマンドラゴラはすぐには抜けない! 間に合わないわ!」


 開始41秒。ミノルの嘲笑とルカの声を聞き流し、タカミチはありったけの力を込めてマンドラゴラを引っ張る。

「ぬぐっ……んんんんぬおおおお!!!!」


 開始42秒。マンドラゴラが、少しだけ動いた!

「なっ……!?」


 開始43秒。ミノルの右マンドラゴラがチャージ完了の音を鳴らす!


「だがここまでだ! 防御すらできず死ねリーゼントォッ!」

「せからしかッ! てめーなんざに、負けてたまるかよクソメガネェェッ!」

 先にマンドラゴラを引き抜いたのは──ミノル!

 pgyaaaaaaaaaaaa!!

 渾身の爆音波はグラウンドの土を噴き上げながら、過たずタカミチに突き刺さる。まるで爆発でも生じたかのごとく、タカミチを中心に土埃が吹き上がる!

「鬼塚くん!」

「どうだ! 僕のマンドラゴリック居合に、負けはない!」

 確かな手応えに、ミノルが声をあげる。

 もうもうと立ち込める土埃が晴れていく。そこには──鬼塚タカミチが、なにかを高々と掲げていた。

「っっ……がっ……い、痛ってぇやんけェ……痛ってぇ……痛っっっ」

「なっ……!? あれを喰らってまだ意識が──なッ!?」

 その時、ミノルとルカは信じられないものを見た。

 タカミチが振り上げたそれは──掲げた手の先にあるのは、土の塊であった。その手元、柄の部分はバトル用マンドラゴラのそれである!

「こ、こいつまさか周囲の土ごと……!?」

 然り。それは、土がたくさんついたままのマンドラゴラである!

「痛っっってーなぁぁくそおおおあああああ!」


 開始52秒。あまりの事態に、ミノルの反応が遅れた。

「ぶちくらすぞクソボケぇぇ!!!!」

 タカミチが土塊を、マンドラゴラを、地面に叩きつける!

 bgiiiieeeeee!!!

「しまっ──!?!?!?」

 爆音波は即座に、ミノルを飲み込んだ。


 開始54秒。吹っ飛ばされたミノルは、そのままグラウンドに叩きつけられ、動かなくなった。

「なっ……つ、土ごと抜いて、マンドラゴラするタイミングをずらしたの……!? そんなのアリ!?」

 驚愕に目を見開き、ルカは言葉を続ける。

「それだけじゃない。抜いた土を盾にして、頭や身体をマンドラゴラされるのを防いだのか……って、ミノル!? 大丈夫!? ああっ! 鬼塚くんも!」

 気力を使い果たして倒れ込むタカミチ。ルカは大慌てで、二人の救護に回るのだった。


    ***


 試合後。

「俺っちが、部活ぅ?」

「そ。私が推薦するからさ。どう?」

「どう? って言われても……俺っち、ヤンキーだし?」

 バトルマンドラゴラ部の部室でスポーツドリンクを飲みながら、タカミチたちが話していた。

「逃げるのかリーゼント?」

「あァ!? つかお前負けたろ! 約束どーり謝れっちゃこのメガネ!」

「はいはい謝りますよー。すみませんでしたー」

「反省の色がねーんちゃ! レンズに指紋つけるぞオラァッ!」

「なっ……それはダメだろう! お前の眼球に指を突っ込むぞ!?」

 ギャンギャン騒ぐ男子ふたりを微笑ましく眺めながら、ルカは口を挟んだ。

「で、どう、鬼塚くん? やってみない? バトルマンドラゴラ」

「あー……えー……?」

 眉をしかめるタカミチ。それを見おろして、ミノルが口を開く。

「リーゼント、いいことを教えてやろう」

「あん? いいこと?」

 ミノルはメガネをただし、不敵な笑みと共に言ってのけた。


「姉さんは、“私より強い人が好み”だそうだぞ」


「ちょっ!? ミノル!?」

「俺っち入部しまーす!」

「鬼塚くん!?」


 こうして、行橋独尊学園バトルマンドラゴラ部に新たな仲間が加わった。

 ──これはやがて語り継がれる、インターハイ無敗伝説の、ほんの始まりにすぎないのだった。


(完)

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