第18話 アイドルのお願い
「そろそろゆっくり話を聞かせてもらおうかしら?」
「僕だって全てを知ってるわけじゃないよ。本人に聞いてみたら?」
「はぁ~?相手は世界の歌姫よ?それにわたし……英語話せないし」
かおりんと一緒に帰宅して、あんなことやこんなことを想像の中でしようとしてたのにいきなり質問攻めだ。
「痛い!なぜいきなりつねるのさ?」
「変な妄想にわたしを出演させた罰よ」
……どうしてわかったんだろう。エスパーかよ?
まあ……その……つねられるのも肌が触れ合うし、この絶妙な加減の痛さなら心地いい。
ゴツッ!
なにかが頭を直撃して意識がとびかけた。
漫画だと目玉が飛び出るほどの衝撃だ。
「あ、ごめん。たまたま電話帳がそこにあったから」
「電話帳はたまたまあっても人の頭に投げつけるものじゃないと思うよ。じゃあアリアナの話だったね」
やはり彼女はエスパーかと思う。
つねられて何とも言えない幸福をかみしめていたところ瞬時に対処されるとは油断も隙もあったものじゃない。
「そうよ。だからいい加減その締まりのない顔はやめて」
……なんだと!?
ただ顔に出ていただけかよ!
ここは何事もなかったように気を取り直して話を進めることにした。
「むかーし、むかーしある所に…痛ぇ!悪かったよ。ちゃんと話すからこれ以上はやめて」
僕のせいでBVアイドルの称号をかおりんに与えるわけにはいかない。
アリアナと出会ったのは父さんとアメリカに住んでいた時のこと。
母さんの夢は本場アメリカのハリウッド女優になることだったので、何気なく父さんの休みの日に撮影現場を見に行った。
そこに偶然居合わせたのがアリアナだった。
なんでも映画の主題歌をアリアナが担当しているので撮影を見学しに来たとか。
そして彼女が僕達を見つける。
日本人に興味があった彼女は僕らに声をかけてきたのだ。
その理由が……
アイドル時代の母さんのDVDを見て大ファンになったらしい。
きっかけは昔日本のアニメ番組の主題歌を母さんが歌っていた事がきっかけだった。
大好きなアニメの大好きな歌。
いつも歌っていたようで歌手になるきっかけにもなっている。
得意気にサビの部分を日本語で歌う彼女に、父さんが妻が歌っていたと伝えるとアリアナはえらく感激し、母さんが亡くなっていることを伝えると悲しんでいた。
それがきっかけで彼女の時間が空けばちょくちょく遊ぶようになっていた。
世界の歌姫である彼女のスケジュールは分刻みであるにもかかわらずだ。
「お母さんの大ファンなのはわかったけど、それだけで結婚しようなんて言うかしら?」
「それは……僕もアリアナと一緒に歌やダンスのレッスンをしていたから親しくしていたせいだと思う」
「ほんとにそれだけー?それに友達だからって何であんたが一緒のレッスンに参加してるのよ?」
細目で疑いの眼差しを向けてくるかおりん。
やっぱり可愛い。
もちろん最初はアリアナの気まぐれで友達枠として参加したのは事実だけど、かおりんの予想通りそれだけではない。
あれはアリアナの受賞記念パーティーを自宅で開催した時のことだ。
関係者が大人ばかりで主役である彼女にとっては面白くなかったのだろう。
パーティー途中で僕の携帯に誘いの連絡が入った。
いつものように話し相手になって欲しいのかと何も考えずに彼女の家へ父さんの車で送ってもらうと……
オーマイガー!
そこは僕のような一般人には到底縁のないキラキラした世界が広がっていた。
もちろんアリアナにとっては軽いいたずらのつもりだったのかもしれない。
そしてみんなを楽しませるために歌を披露することに。
しかも……僕とペアを組んで。
周りの大人が止める中、構わず代表曲のイントロが流れ始める。
そして曲が終わる頃には……アメリカでの人生がすっかり変わっていた。
僕はアメリカでダンサーと俳優デビューを飾っているのだ。
オタクの僕がアメリカでデビューなんてと思われるかもしれなが、今とは全く違う風貌なので日本ではばれていない。
唯一知っているのは父さんと一部の学校関係者とみかちゃんだけなのだ。
どうだ!凄いだろ!アメリカのアイドルと一緒に写真も撮ってもらえたんだぜ!
「なにさっきからブツブツ言ってるのよキモ!」
どうだ!凄いだろ!神対応で有名な日本のトップアイドルに罵られる唯一の男なんだぜ!
「……えてよ」
「なにか言った?」
「本場のレッスンを受けていたのなら、わたしにダンスだけじゃなくもっといろいろ教えてって言ったの。家族なんだから協力して欲しい……」
僕の自由気ままなオタク生活を卒業する日が近づいているのかもしれない……
ガチでオタクな僕に、人気絶頂アイドルの妹が出来ちゃった件 スズヤギ @suzuyagi
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